午後三時半のレクイエム。【不死川実弥】

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「A！こっちだこっち！」




　私の姿を見つけた匡近が、大きくこちらに手を振っていた。その声に駆け寄れば予想外のことに狼狽えた。
　木々の影でわからなかったが、匡近と不死川の周りには、小さな子供たちが二人を囲むように輪になっていた。そして、よく見れば子供たちと二人の手には折り紙や棒などが握られていた。
　何をしてるのか、訊こうとすれば女の子の一人が私の手を引いていた。「一緒に作ろう」と弱い力で私を引っ張りながら言うので、困った私は匡近を見たが彼は笑って手を振るだけだった。



「何を作ってるの？」
「風車」



　この辺りは風が気持ちいい。暖かさを含むようになった春風が、さらさらと吹き抜け頬を撫でる。その風が木々たちに踊ろうと誘い、戸惑いながらも弱々しく舞っていた。それらのことを、天から来る真赭と柑子の光線が協和し温かく包み込んだ。
　女の子は、その小さな手で器用に折り紙に対角線で折り目をつけた。慣れた手付きであっという間に小さな風車が一つ出来上がった。
　折り紙で作られたそれは、女の子が着る継ぎ接ぎの多い着物と同じ桃色だった。女の子は、同じく桃色に染めた頬で「すごいでしょ」と無邪気に笑って見せてくれた。
　からから、と回る風車は小さな手で作ったせいか、突風が吹けば呆気なく壊れ、飛ばされてしまいそうな程、大そう弱くて脆いものに見えた。



　─────どうしてか私はそれが嫌で堪らなかった。



「上手だね、すごいなあ」
「お姉ちゃんも作ろう」



　私よりもずっと温かくて小さな手が私の手に添えられた。
　鶯色の折り紙で私は風車をつくった。糊が薄いのか、自分で作ったそれも繊細で不安定で弱く脆いものとなってしまった。
　「交換しに行こう」と女の子は私の手を引いた。周りの子供たちも同じように自身で作った風車を交換していた。そういう風習がこの地域にはあるのかもしれない、と呑気に考えていれば、ばつが悪い顔となった不死川が私と同じ様に男の子に手を引かれていた。
　「新太にあげる」「俺のは弥恵にやる」と言葉を交わす彼らは、つぶらな瞳で私たちを見ていた。視界の端には嬉しそうに笑う匡近が映った。
　その時、私の左の横腹に不死川の肘頭が埋まり、鈍い痛みが走った。子供たちが見ている手前、致し方なく不死川と交換した。



　─────それは空色の風車だった。

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