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 めちゃくちゃな稽古だった。
 反吐を撒き散らす隊士を、あろう事か、気にも止めず踏み付け、更に何人もの隊士たちを吹っ飛ばす。どうかしている。
 神々しくもどこか不気味に笑うような満月が、この真っ黒に染まる空を占領していた。その周りを、まるで慕うように細々と光り輝く星々が点々としていた。
 襖を挟んだ、少し先の部屋からは男性隊士たちの溌剌とした笑い声が、何枚かの層を超えたぐらいの大きさで私の耳にも届いた。
 厳しい鍛練だったというのに、束の間の時間を過ごす彼等が羨ましい反面、自分の膝を抱えながら、これでよかったのだと思う事にした。
 女性の隊士は元々、その数が少ない。今、実弥の稽古を受ける女性隊士は私だけだったが、それでいい。他にもいたとすれば、私はきっと、実弥を本気で刺しに行ってしまいかねない。
 彼のことだ、女性だからといって手を抜くなんて、温いことする筈もない。けれどその瞳に嫌でも女性が映ってしまっている実弥を、理由は致し方ないと思いながらも、見たくない、決して見たくないのだ。
 仮にもそんな彼を見てしまえば、何で私を見てくれないんだ、と利己主義の範疇を超えた悋気の御託を並べ、彼を罵ってしまうだろう。


 ─────私は、こんなにもって。




「─────A」
「……何?」
「いや、まだ寝てねェのか」
「……実弥こそ」




 襖一枚、たった一枚挟んだその先で、実弥の声がした。低く品位が漂う声だ。その声に、思わず狼狽えた。
 多くの隊士たちが身体を休める部屋と実弥の部屋。実弥の部屋と私の部屋は隣で、物理的には彼の方がどう考えても近いのに、襖一枚なのに。
 どうしてか私には声は聞こえるのに、実弥が遥か遠くにいるように感じてしまって、それが嫌で堪らないから、立ち上がり襖に寄り掛かるように座った。
 凡そ一寸程だろうか。私と彼を隔てるものはそれぐらいだというのに、十尺、いや十尺の数十倍にも感じられた。到底、追いつけないほどの距離を嫌でも感じてしまった。

 

「目、醒めちまってよォ……彼奴らがうるせェから」
「少しぐらい許してあげなよ。偶には」



 小さく、舌を叩く音とそれからずるずると何かと何かが擦る音が聞こえた。彼は、いや、彼も、私と同じように襖に背を預けて座ったようだ。
 こうして、何も口にしないでいれば、奥で騒ぐ声が耳を通り越して、そして、あの道場でのひと時がふわっと浮かぶ。



「……なァ、A」

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設定タグ:鬼滅の刃 , 不死川実弥   
作品ジャンル:恋愛
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(プロフ) - 環さん» 環さん、コメントそして労い言葉有難う御座います!本作は私自身悩みに悩み一度は本気で削除しようと思ったお話なので、お褒めの言葉がとても沁みます(;_;)風車は重要な言葉の一つでしたので環さんの考えを聞けて私は嬉しいです!最後まで本当に有難う御座いました! (2021年6月12日 10時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 蓮さん完結おつかれさまです、ありがとうございます。すごくすごく美しいお話でした。コメントさせてもらうのも恐縮でしたが、この感動をお伝えしたいなと思いまして。最後に風車が回ったのも夢主が前に進めた、時がやっと進んだのかなと思いました。素敵なお話でした! (2021年6月11日 18時) (レス) id: 940f9d3174 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 猫巻さん» 猫巻さん初めましてコメントそしてお祝いのお言葉も有難う御座います!苦しい鬼殺の世界でも希望を忘れずに自分らしく生きようとする夢主で御座いました!理解し難いお話でしたがそう言って頂けたこと最後まで猫巻さんに読んで頂きこちらこそ本当に有難う御座いました! (2021年6月11日 16時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - りりさん» りりちゃんコメントありがとう!雰囲気や軸がブレないようにいつもより慎重に言葉選びしたから本当に書いた甲斐がありました…そしてりりちゃんの考え方が本当にその通りすぎて素敵です。りりちゃんの考えを知れてよかったです!最後まで読んでくれて本当にありがとう! (2021年6月11日 16時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 唯梨さん» みいちゃん、コメントありがとう!好き嫌いが両極端な話だけど読んでくれてありがとう!それぞれの意味はみいちゃんの好きなように受け取ってね、否定的でも何でも私は構いません!みいちゃんの考え方を尊重します!こちらこそ最後まで読んでくれて本当にありがとう! (2021年6月11日 15時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2021年5月8日 20時

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