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「だからこそ、俺は一日も早く安寧の日々を掴みたい。A。君も共に力を貸して欲しい」
強大な力が、圧が、そこかしこに及んでいた。地面がズタズタに引き裂かれ、既に黒く変色した血がその周りを彩っていた。
盛大な歯軋りを立てながら横転したであろう無限列車が、その隣で静かに眠りについていた。
透き通るかのような青みを帯びた空。その空の真ん中で、両の翼をどこまでも長く伸ばす鷲。傾斜した身体で、泳ぐように旋回を続けて、まるで水の渦を描いていた。
薙ぎ倒された木々がしとしと、と泣いていた。その涙が地面に染み込んで、そして、あの三人の癸の隊士たちの涙も一緒に。
─────煉獄くんが死んだ。
乗員、乗客、計二百名余りの人質の命を救った男の死に様は実に美しく、そして勇ましいものだったと。煉獄杏寿郎。齢
目を閉じて、一瞬の間に長く短い歳月を歩いた。彼と出逢ったのは、いつだったか。
眩しく憎らしい程の神々しい満月の下で、彼は踊るように舞うように、燃え盛る炎を自由に描いていた。
烈火の猛虎が噛み砕き、業火と共に日輪刀が綺麗な弧を何重にも描きながら重なり合う。
「……煉獄くん、やっぱり駄目だよ」
安寧の日々。それはいつ訪れてくれるのだろうか。幾千まんの命が脅かされず無邪気に笑う、そんな日々が本当に来るのだろうか。
到底、語り切れぬ命と私の恋情を、天秤にかけること自体、許されるものではないのだ。この世界には実弥が必要なのだ。
深く抉られた地面の中央に、一つの花束があった。白い花だった。その純白は、太陽と赤黒い血と地面に見事に色褪せてしまって、その可憐で煌びやかな色彩は、酷にも溶け込んでしまっていた。
きっと実弥が手向けたものだ。確証も証拠もない。ただの直感だった。
彼は、実弥は、弟の為、多くの命の為、その命を賭す。私にはそんな彼を支えることしか出来ない。それ以上になってはいけない。与えるだけ。ただそれだけ。
「ごめんなさい。煉獄くん」
安寧の日々が訪れれば、私と実弥は。そう願う煉獄くんをまるで裏切るような、そんな言葉のようだった。
そんな日々が仮に来たとして、その頃にはきっと私の心は死んでいる。屍になっている。そんな気がするのだ。
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蓮(プロフ) - 環さん» 環さん、コメントそして労い言葉有難う御座います!本作は私自身悩みに悩み一度は本気で削除しようと思ったお話なので、お褒めの言葉がとても沁みます(;_;)風車は重要な言葉の一つでしたので環さんの考えを聞けて私は嬉しいです!最後まで本当に有難う御座いました! (2021年6月12日 10時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 蓮さん完結おつかれさまです、ありがとうございます。すごくすごく美しいお話でした。コメントさせてもらうのも恐縮でしたが、この感動をお伝えしたいなと思いまして。最後に風車が回ったのも夢主が前に進めた、時がやっと進んだのかなと思いました。素敵なお話でした! (2021年6月11日 18時) (レス) id: 940f9d3174 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - 猫巻さん» 猫巻さん初めましてコメントそしてお祝いのお言葉も有難う御座います!苦しい鬼殺の世界でも希望を忘れずに自分らしく生きようとする夢主で御座いました!理解し難いお話でしたがそう言って頂けたこと最後まで猫巻さんに読んで頂きこちらこそ本当に有難う御座いました! (2021年6月11日 16時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - りりさん» りりちゃんコメントありがとう!雰囲気や軸がブレないようにいつもより慎重に言葉選びしたから本当に書いた甲斐がありました…そしてりりちゃんの考え方が本当にその通りすぎて素敵です。りりちゃんの考えを知れてよかったです!最後まで読んでくれて本当にありがとう! (2021年6月11日 16時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - 唯梨さん» みいちゃん、コメントありがとう!好き嫌いが両極端な話だけど読んでくれてありがとう!それぞれの意味はみいちゃんの好きなように受け取ってね、否定的でも何でも私は構いません!みいちゃんの考え方を尊重します!こちらこそ最後まで読んでくれて本当にありがとう! (2021年6月11日 15時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蓮 | 作成日時:2021年5月8日 20時