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合同任務後、私たちは特に顔を合わせることもなく、各々がただ任務をこなす日々を送っていた。
そんな中、全鬼殺隊士に───鬼を連れた鬼殺隊士についての伝令が届いた。それを聞いた私は、まるで吸い取られるように、呼ばれたように、義務感に取り憑かれて道場に足を運んだ。
久方ぶりに足を踏み入れた道場は、相も変わらず独特なあの汗が染み込んだ匂いがしてきた。足を踏み込むたびに、ギィギィと床板が重いと渋る音も響いていた。壁の隙間から入り込む風が、柔らかい。匂いと音と風が、この寂しい道場を包み込んで、さらに午後三時半の温かい光が、鮮やかに色付ける。
私は迷いなく道場に入ってすぐ、実弥の隣に腰を下ろした。実弥は力なく壁に寄りかかりながら腰を下ろしていた。右脚を曲げて左脚は胡座をかく。右脚に手を預けて、虚な眼で、真っ直ぐに前を見ていた。
「……実弥」
返事はなかった。だらんと垂れ下がり、床に投げ出された実弥の左手は、肉刺が潰れて、かさかさに乾燥して、傷だらけだった。私はその手に、自分の手を重ねて、彼と同じように真っ直ぐに前を見た。そして一度目を閉じた。
古びた柿色の道場で、汗を流す私と匡近と実弥が浮かび上がった。和気藹々と声を出し、厳しい鍛錬だというのに笑みを溢す。
瞼を持ち上げて、同じ場所を見てもただ柿色の光があるだけで、あとは何もなかった。何もかも変わってしまった。
「……あいつらは良くて、他の奴らは駄目なんてどうかしてる。鬼舞辻と遭遇したから何だ。家族が鬼と成り代わっても生きていて欲しいと思うのは、皆同じだろうがァ」
彼から出る言葉に、私は涙も言葉も笑いも、何もかもを失った。私はただ、前を向いていることしか出来なかったのだ。私の手を、強く握る力を隣から感じながら。
実弥はどこまでも、私に、それでもいいと思わせようと手を握るのだ。離れられぬよう、強く、どこまでも手を握るのだ。私には貴方だ。貴方には弟だ。それでも実弥は、手を握り、そして離さない。
突き放せばいい。そんなことはわかっているけれど、どうしても私は手を離せず、それどころか貴方と同じ分だけ、いやそれ以上に、貴方の厚くて逞しくて傷だらけの手を握り返す。
握り返すと小さな嗚咽が響いた。実弥は俯いたまま、顔を上げない。それが、所詮私は貴方に与えるだけなんだと、証明されてしまったようで泣きたくなった。
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蓮(プロフ) - 環さん» 環さん、コメントそして労い言葉有難う御座います！本作は私自身悩みに悩み一度は本気で削除しようと思ったお話なので、お褒めの言葉がとても沁みます(;_;)風車は重要な言葉の一つでしたので環さんの考えを聞けて私は嬉しいです！最後まで本当に有難う御座いました！ (2021年6月12日 10時) (
レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 蓮さん完結おつかれさまです、ありがとうございます。すごくすごく美しいお話でした。コメントさせてもらうのも恐縮でしたが、この感動をお伝えしたいなと思いまして。最後に風車が回ったのも夢主が前に進めた、時がやっと進んだのかなと思いました。素敵なお話でした！ (2021年6月11日 18時) (レス) id: 940f9d3174 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - 猫巻さん» 猫巻さん初めましてコメントそしてお祝いのお言葉も有難う御座います！苦しい鬼殺の世界でも希望を忘れずに自分らしく生きようとする夢主で御座いました！理解し難いお話でしたがそう言って頂けたこと最後まで猫巻さんに読んで頂きこちらこそ本当に有難う御座いました！ (2021年6月11日 16時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - りりさん» りりちゃんコメントありがとう！雰囲気や軸がブレないようにいつもより慎重に言葉選びしたから本当に書いた甲斐がありました…そしてりりちゃんの考え方が本当にその通りすぎて素敵です。りりちゃんの考えを知れてよかったです！最後まで読んでくれて本当にありがとう！ (2021年6月11日 16時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - 唯梨さん» みいちゃん、コメントありがとう！好き嫌いが両極端な話だけど読んでくれてありがとう！それぞれの意味はみいちゃんの好きなように受け取ってね、否定的でも何でも私は構いません！みいちゃんの考え方を尊重します！こちらこそ最後まで読んでくれて本当にありがとう！ (2021年6月11日 15時) (レス) id: 1ceb99e799 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蓮 | 作成日時：2021年5月8日 20時
