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最初は余裕がなさそうに焦りながら練習していた彼女も、時間が経つごとに自分のペースを掴んで独り言を呟く姿まで見られるようになった。…それと同じくらい泣いている姿も見たけど。
どんなに打ちのめされても、自分の夢を掴もうともがいて。
俺もこの子みたいに頑張らなきゃ。
そうやって直向きに日々を全うする彼女を見て、地の底まですり減っていた俺の向上心も少しずつ回復してきたようだった。
そんなある日、いつもの時間に行っても彼女の姿がなかった。
あんなに一生懸命だったんだから、もしかして体調でも崩したんじゃないか。あぁ、そんなことになるくらいなら俺が声を掛ければよかったかな。
小心者な自分への後悔を誤魔化すように、誰もいないことを確認してから俺もそのソファに座ってみることにした。 ふかふか、とまではいかないけどなんだが落ち着く座り心地で、不思議と心が休まるようで。
…今度会ったら、話しかけてみようかな。
消極的な俺にそんな勇気が湧いてくるくらい、彼女は俺の中で輝かしい存在だった。
それから数日後、彼女のいない間にその場所で休憩していた俺が忘れ物をしたことが初めて話す理由になることなるなんて…
“A”と名乗ったその子が、今練習生の中で「完璧な子」として話題のその子だったことを知って驚いた。
でもそれと同時に、あの子の魅力を知ってたのは俺だけじゃなかったんだ、と勝手に抱いていた優越感は崩れていった。
見た目のままで、どこまでも真っ白な子で何にも染まっていない純粋さがある。それはうちのマクヒョンに似たピュアさで、俺の少しの冗談でさえ信じ込んでしまうから、いつか詐欺に遭ってしまうんじゃないかとすら心配になる。…しかもそれが年上だなんて。
柔らかい毛布のような、温もりのある彼女が自然と“年下”の雰囲気を醸し出していたし そんな彼女だって、俺にカチカチの敬語で話してくるものだから、勝手にそう思ってたんだ。
俺がデビューしてからも、以前より頻度は減ったけどこの関係は続いた。だから、いざ他の誰かに聞かれてしまった時にいけないと思って“ヌナ”と“ジェノ”呼びにしようと決めたんだけど。
「っ、やっぱ何回聞いてもその呼び方慣れない…」
『えぇ？じゃあどうしたら』
「2人でいる時は、今まで通りAって呼んでくれないかな？」
こうして、俺たち2人だけの秘密が出来上がった。
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作者名：めろんぱん | 作成日時：2023年3月13日 17時
