花と言の葉【snr】

まよっていたから ページ2

「いつ引っ越すつもりなの？」


声をかけたら、ソファに座る背中がぴくりと震えた。だらだらするぐらいなら部屋にいけばいいのに、元恋人のいるリビングでスマホをいじっているなんて肝が座っている男だ。

それで厚かましくスマホを見つめながら、1週間後とでも答えるかと思ったら、ご丁寧にも電源をオフにして私の方を振り返った。


「三日後」

「みっ……早くない？片付けとかどうすんの」

「明日ゴミの日やし纏めたらすぐ終わる」

「あ、そう……」


あなたの持ち物って、そんなに少なかっただろうか。


「でも、布団とかは頼むかも。粗大ゴミの日に出しといてくれると助かるわ」

「分かったけど……」


頷いて寝室に引っ込みながら、腑に落ちない頭で考えた。

確かに彼はあまり物を買い込むタイプじゃない。どちらかと言えば床に物を溢れさせているのは私の方で、ため息をつかれた記憶はまだ新しい。

それにしても、たった一日のゴミの日で全部捨てられるほどの量ではなかったはずなんだけど……と、訝しく思って改めて部屋を見渡し、どこかいつもと違うことに気がついた。


(ものが、減ってる……？)


ラックの本だとか、クローゼットの服だとか、彼の物があったところがやけにすっきりとしているような。……いつの間に片付けたんだろう。

彼のことだから、決断した日から動いていたのだろうか。私にばれないように少しずつ、身の回りの整理を始めて、分別をして、残したいものは新居に送って……というか先に新居を決めて、不動産屋で手続きをして、仕事先にも引越しの話をして……


あれ、待って。

こーゆーのって、結構時間かかるもんじゃないの？

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