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お願いと両手を合わせる彼に、二つ返事とまではいかないものの「いいですよ」と答えると、大鳳先生は、ぱぁっと顔を明るくさせた
「ありがとう!数学科準備室に運ぶんだけど、教科書頼んでもいい?」
「はい」
うらたが来るまで時間がかかりそうな気もするし、手伝ったらすぐに戻ってくれば平気だろう。
ご機嫌で歩き出した先生の1歩後ろを、教科書が入ったかごを持って着いて行く。
まもなく「ねぇ、羽衣石さん」とこちらを振り向いたので「何ですか」と返したら、間髪入れずに先生が疑問符を浮かべた。
「羽衣石さんは、数学好き?」
「まぁまぁ」
「そっか。授業中、熱心に聞いてくれたのが嬉しくてさ」
ころっと笑う話し方は想像通りの無邪気な人柄を表しているみたい。
多分、私が馴染みやすいように作ってる部分もあるのだろうが、特に悪意みたいなものは感じられなかった。
ただ残念ながら、人は見かけに寄らないものだし、簡単には信用出来ない。依然として口調を崩すことなく私は「そうですか」と返すだけだった。
「さっきの授業、自分でも下手な説明しちゃったかなって思ってね。みんなアレで分かったかな?」
「説明が下手でも教科書読めば分かります」
「あはは、確かに。羽衣石さん痛いところついてくるんだねぇ。教師にそれはキツイなー」
地雷をついたつもりだったのだが、大鳳先生はケラケラと笑った。
意外にタフな性格らしい。あと多分これ、一度話せるって気づいたらしつこいタイプだ。
人間観察をしているとも知らずに大鳳先生は、んーと少し宙を見上げて呟く。
「やっぱり教科書通りの説明の方が分かりやすいのかな」
「どうでしょうね、私は教師じゃないので何とも」
もうすぐ数学科準備室に着くという所で大鳳先生が「あぁ」と思い出したように言った。
「そういえば羽衣石さん、ウィングス社の社長さんなんだっけ?」
その瞬間、気持ちがズンと沈むのがわかった。
どうして、脈絡もないのにこの話に飛ばそうとするんだろう。いつもこうだ。少し仲良くなったと勘違いしたらみんな聞いてくる
ただ、大鳳先生はそうした負の感情の変化に聡かった。私の表情が曇ったのにすぐに気づいて、ごめんね、と零した
「聞かれたくないことだったかな」
「……いえ、慣れているので。荷物、どうぞ」
「うん、手伝ってくれてありがとう」
変わらず人良さそうな笑顔で見送る彼をおいて、私は教室へと急いだ
とくに、際立った害が見えない人だった
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ゆん@クイポイのリンクが欲しい人は一報ください(プロフ) - 翔さん» 返信が遅くなってすみません💦クイポイに引き続きコメントありがとうございます!夏はこれからですが、お陰様で元気に梅雨を明けることができました☺️翔さんも、お体を大事になさって過ごしてくださいね (2022年7月15日 22時) (レス) id: dd87fda9ce (このIDを非表示/違反報告)
翔(プロフ) - 更新有難う御座います。暑い日や、梅雨入りが始まりますがくれぐれもご自愛ください。 (2022年6月9日 19時) (レス) id: a4315e12d4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆん@クイポイのリンクが欲しい人は一報ください(プロフ) - 明さん» 返信お待たせしてしまってすみません💦温かい言葉をありがとうございます😢❤️おかげで元気に執筆でき少しですが更新しました。お言葉に甘えてのんびりですが今後も投稿するので良ければ読んでやってください☺️お待ちしてます (2022年5月23日 18時) (レス) id: dd87fda9ce (このIDを非表示/違反報告)
明(プロフ) - いつも楽しく拝読させて頂いています。私はうらたぬきさんの君をどろどろに愛したいの作品が大好きです。気長にお待ちしているので更新して頂けたらとても嬉しいです。お体にお気をつけて、これからも頑張って下さい応援しています。 (2022年4月19日 1時) (レス) id: 55a247d923 (このIDを非表示/違反報告)
ユン(プロフ) - うらゆきさん» わー!嬉しいお言葉、ありがとうございます!是非とももどかしい距離の二人を愛でてあげてください!笑 (2021年7月30日 17時) (レス) id: dd87fda9ce (このIDを非表示/違反報告)
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