3.翠の恩送り ページ10
「なんか鍵かかってんし、血の匂いやばいからちょっと予想はしてたけどここまでとはねぇ……、お前、何したの？」
にやにやと堕天使が覗き込んでくるので、違う、と言おうとした。私が彼に何かされたことはあっても、何かした覚えは一つもないのだ。
声が出なくて、代わりに小さく首を振ると私が逃げようとしていると勘違いしたのか、肩を掴む力が強くなった。
同時に爪が食い込んで、思わず呻く。このまま、彼に血を吸われ続ければ、失血死する事は間違いないだろう。
私には、この状況を止める事も、はたまた逃げる事も出来る訳が無く、ただ肩の痛みに耐えるしかない。
グラグラ揺れる視界の中で堕天使が面白そうに私を見下ろしていた。
「で、どうしてほしいの？」
「っえ…？」
「だからぁ、血ぃ吸われて今死にたいか、ハロウィンが終わる頃に食べられて死にたいか、どっちが良いかって聞いてんの」
恒例の最悪の二択だった。
でも、このえげつない痛みに既に体は限界を迎えている。だから、もう答えは決まっているようなもので
「た、……て」
「え？」
「た、す……て」
「何、聞こえないんだけど」
意地悪く笑う堕天使にこの上ない憤りを感じた。けれど、今頼れるのはこの人物しかいない。掠れる声を無理矢理絞り出して、そのエメラルドに救いを求めた。
「たす、けて……ください」
暫くの沈黙の後、「よく出来ました」なんて声がした。その瞬間、体に掛かる重力と肩の痛みが消えて、空色の天井が顕になる。
時差で何かが壁に勢いよくぶつかる音がして、目だけぐりっとそちらの方に寄せると紫の頭が項垂れているのが見えた。
絹のような前髪の中で瞳孔が赤く光り、私を捉える。偶発的に、ひっ…と声が漏れた。それを合図にか、牙を剥き出しにした彼が飛びつこうと床を蹴りあげる。
あぁ、私、本当に死ぬかも。
しかし、神様はまだ私を見捨てていなかったみたいだった。その牙が私に行き着くよりも早く、堕天使が立ち塞がり、行く手を阻んだ。
起こっているのは数秒間、でも目の前が映画のワンシーンみたいに、スローモーションで動く。
「悪りぃ、まーしぃ」
一言呟いた後、彼に向かって手を伸ばした。黒いマニキュアの塗られた爪のある指先が彼の額に触れる。
すると、紫の瞳に映えた赤が瞼によって隠され、彼はどさりと倒れた。床に崩れた志麻さんは、静かに寝息をたてている。
どうやら、眠っているようだった。
◈
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ユン(プロフ) - LiLi Kaさん» コメントありがとうございます！拘っていた所だったので、気づいていただけて、とても嬉しいです！！ LiLi Kaさんの仰る通り、濃いめの青にしてみました！！ (2020年6月16日 0時) (
レス) id: ca6f64574e (このIDを非表示/違反報告)
LiLi Ka(プロフ) - 惨めのところ色違う？濃い青みたいに見える…もしわざとなら主人様のセンス光ってる！ (2020年6月15日 20時) (レス) id: ef0b88e85e (このIDを非表示/違反報告)
ユン(プロフ) - tamaさん» コメント、応援ありがとうございます！そう言って頂けてとても嬉しいです！！よかったら、主人公ちゃんと4人の行方を見守ってあげてください！笑 (2020年6月9日 10時) (レス) id: ca6f64574e (このIDを非表示/違反報告)
tama(プロフ) - この作品、とても好きです！応援してます！ (2020年6月8日 23時) (レス) id: 38d6d4018c (このIDを非表示/違反報告)
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