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「次、俺の番な〜」
志麻さんは躊躇うことなく、自身のこめかみに銃口を向けた。私が視線を逸らすよりも早く、引き金をひく……____空弾だ。
その後すぐにまた銃口が足に当てられるので、「やめて」と必死に首を振った。
「なんで?まだ終わってへんのに」
「……もう、無理です。志麻さんの勝ちで、いいから。血を、飲んでいいから」
「お前は良くても俺は良くないねん。あ、心配せんでもちゃあんと血は貰うで?」
心底愉しそうに三日月を浮かべる。光のない目が私で遊んでいるという事実を裏付けていて、怖くなる。
紫水晶から逃げる様に、チェストの上で針を淡々と進める時計を見た。
『離れたら守れへんやろ!?』
『ん、どーした?』
『俺の役目は、お前を守る事なんだから』
押し込んだ筈の記憶と思いが溢れてきて、止められなくなって、心臓の辺りが苦しくなった。
ねぇ、なんで?なんでなの?
貴方が私にあの短い間にかけた言葉は、凄く優しい訳じゃなかった。確かに考えてみれば、魔物だって疑える瞬間だって、あったのかもしれない。
でも、それでも疑えなかった。
たった数時間でこんな気持ちを抱くのは可笑しいって自分でも思う。だけど、抱いちゃった物は仕方がないじゃないですか。
ねぇ、教えて。
一つだけでいいから教えてください。
「……あの、笑顔、は、ウソですか?」
フッと志麻さんの三日月が消える。一瞬、その水晶が揺れたのが見えたが、それは次に聞こえた銃声でかき消された。
ダンッ!!!!
何が起きたのか分からなくて、茫然とした。
が、時間差で駆け上がってきた痛みに、声にならない叫びがあがって、銃から出たのが実弾だと言う事に気がついた。
風穴の代わりにポツンと残った紫色の跡が滲んで、前を向くとあの端整な顔があった。
志麻さんが絶句している様に見えたが、確認する暇もなく、項に噛みつかれて、悲鳴も出せず、されるがままになる。
麻酔のせいか、痛みは感じなかったけれど、どうしてか、その吸血がとても痛かった。
飲まれ始めてどのくらい経ったかすらも分かんなくなってきて、段々と頭がボーッとしてきて、意識が遠退いていく。
あぁ、私は死ぬのか……
諦めて最期が来るのを待とうとした。しかし、それをソプラノよりの声が邪魔する。
「おー、まーしぃ理性切れてんじゃん」
意識がこっちに戻されて、少し目を開ける。
そこにあったのは深翠色のエメラルドだった。
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ユン(プロフ) - LiLi Kaさん» コメントありがとうございます!拘っていた所だったので、気づいていただけて、とても嬉しいです!! LiLi Kaさんの仰る通り、濃いめの青にしてみました!! (2020年6月16日 0時) (レス) id: ca6f64574e (このIDを非表示/違反報告)
LiLi Ka(プロフ) - 惨めのところ色違う?濃い青みたいに見える…もしわざとなら主人様のセンス光ってる! (2020年6月15日 20時) (レス) id: ef0b88e85e (このIDを非表示/違反報告)
ユン(プロフ) - tamaさん» コメント、応援ありがとうございます!そう言って頂けてとても嬉しいです!!よかったら、主人公ちゃんと4人の行方を見守ってあげてください!笑 (2020年6月9日 10時) (レス) id: ca6f64574e (このIDを非表示/違反報告)
tama(プロフ) - この作品、とても好きです!応援してます! (2020年6月8日 23時) (レス) id: 38d6d4018c (このIDを非表示/違反報告)
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