神様卅参 ページ34
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桑島が目を覚ましたのは明け方だった。日射しが丁度出てきた早朝。まだ戦場にいた。
「起きた?」
「…時透さん。どうしました?」
すると無一郎はむすっと、顔を背けて拗ねてしまう。名前呼び…、と呟いた無一郎を不思議そうに眺める桑島。そして、気を失うまでの事を思い出した。
「え、時透さん…もしかして」
「無一郎」
「……無一郎」
よく出来ました。そう言って無一郎は桑島の頭を撫でた。
そんな無一郎を惚けて見つめていると、ふと抱き締められる。驚いて、目を見開いた。無一郎は強く桑島を抱き寄せて弱々しく言った。
「ねぇ、僕許さないよ」
「え?」
「記憶がなくても一緒にいてよ。Aは僕の神様なんでしょ?じゃあ一緒にいないと駄目だよ」
無一郎の手に、より力が篭った。
「僕何でも聞くからさ……もう、…どこにも行かないでよ」
彼らしくもなく弱々しく呟かれた言葉に桑島も無一郎を抱き締め返した。ぽんぽん、と母親のように背中を優しく叩く。
こんな風に言われたら、はいとしか言い様が無い。
「……もうどこにも行きません。約束です」
何だか避けていた事が申し訳なかった。記憶がないからと逃げた過去の自分を殴りたい気分だ。
もし記憶が無くても前と同じ態度でいれば、もっと早く記憶が戻っていたのだろうか。
どちらにしても、記憶が消える不安を一緒に悩んでやれなかった事に変わりはない。これからは助け合いながら生きていこうと、有一郎に誓った。
「ねぇねぇ、ふろふき大根好きの“彼”って僕でしょ?」
「っ!!」
一気に熱くなる体。血が顔に登って、湯気が出そうだ。赤くなる頬を隠して、反射的に違うと否定してしまった。
何故無一郎はそれを覚えているのか。恥ずかしい。
さっきの弱々しい彼は嘘のように消えていた。
違うの?、と彼は目を丸くして不思議そうに聞く。
「僕のこと好き?」
「……」
「ねぇ、好き?」
不安そうに確認してくる無一郎。顔を覗かれる。躊躇することも許さないようだ。
「〜〜っ、好き…です…」
「知ってる」
悪戯っ子のように口角を上げ言った無一郎に、ぷいっと顔を背けた。すると笑顔で可愛い、と呟いた無一郎。
むっとした桑島は無一郎を睨む。痛くもないのか、にこにこな表情は変わらない。
仕返しに無一郎を引っ張って頬にキスを落とす。
「…え…」
驚いたように頬に手を当てる無一郎の顔は、ほんのりと赤く色づいていた。
当分の間は口にキスはお預けだ。
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パプタピ - ねむりねこさん» こちらこそコメントありがとうございます!今はテスト期間なので作るのは遅くなると思いますが、待っていて下さると幸いです!あと、別の端末から送ったため名前が違うんですけど、あんまり気にしないで下さい。 (2019年11月13日 19時) (レス) id: 36c4c5cb96 (このIDを非表示/違反報告)
ねむりねこ(プロフ) - 返信ありがとうございます!次回作、楽しみにしております!!! (2019年11月13日 15時) (レス) id: b1690d9a63 (このIDを非表示/違反報告)
カルビ - ねむりねこさん» ご愛読ありがとうございましす!薄情でハクジョウって読むんですね、ご指摘感謝します。確かに薄情者!って言いますもんね…。もう本当、作者のポンコツぶりが、どんどん暴かれていく…(震)次回作品も応援お願いします! (2019年11月13日 15時) (レス) id: 36c4c5cb96 (このIDを非表示/違反報告)
ねむりねこ(プロフ) - 鬼滅亡…………… (2019年11月13日 9時) (レス) id: b1690d9a63 (このIDを非表示/違反報告)
ねむりねこ(プロフ) - いつも楽しく読ませていただいています!一つ気になったのですが、薄情はハクジョウと読みます!水を差してしまってごめんなさい、応援してます! (2019年11月13日 9時) (レス) id: b1690d9a63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:パプタピ | 作成日時:2019年11月7日 18時