29回裏 ページ10
「クリス！！！」
違和感は前からあった
なんとなくほんの少しの違和感
ただあまりにもいつも通りだったから、彼ならどうしてもという時は言ってくれるだろうっ、て
グラウンドで蹲るその姿を見てサァッと血の気が引く
「直ぐに病院へ…！！」
「はっ、はい！」
「っ！応急処置くらいなら出来ます！！」
監督の言葉で呆然としていた頭を叩き起す
自分が使える応急処置が役に立つのかは分からないが、何もしないよりマシだろう
膝を着き顔を痛そうに顰める優くんに駆け寄る
「優くん、痛いところ触るね」
肩を抑えるその手を退かせ焦りそうになる表情を必死に隠す
「(肩だ…！よりにもよって肩…！この痛み方、まさかそんな、でも、だって…！)」
「…A」
「…っ！！」
「…お前は、悪くないからな」
肩を冷やす手から力が抜けそうになる
そんなはずは無い、私だって違和感に気が付いてたよ
それなのに優くんは大丈夫って声を掛けなかったのは私だよ
「車の準備出来ました！！」と高島先生の声で監督が支えながら立ち上がった背中を見ている事しか私には出来なかった
「…ぜんち、いちねん…？」
「ああ」
戻って来た監督に詰め寄るといつもより小さな声でそう言った
「わた、私のせいだ…！」
「お前のせいではない、クリスも言っていただろう」
「でも、何となく違和感に気付いていたんです！それでも、優くんならって、なにも…私何も言わなかった…」
零れそうになる涙を必死に耐える
泣きたいのは私じゃない、優くんだ
私が泣いてどうする
そんな私の頭に監督がポン、と手を置いた
「お前は入部以来本当によくやってくれている、だがまだ一年だ、部員の管理は俺たち指導者の役目、責任は俺達にある」
「言わなかったのも、あいつの判断だ」そう言って私をあやすかのようなその手つきに堪えていた涙が零れ落ちる
もっとちゃんと気にかけていれば、ちゃんと優くんと話していれば、そんな後悔がどんどんと押し寄せてくる
そんな押し寄せる後悔に比例して涙が溢れてくる
監督は私が泣き止むまでそばにいてくれた
そして優くんの二年生の夏が終わりを告げてしまった
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作者名：とらお | 作成日時：2022年9月14日 23時
