44回裏 ページ40
「成宮、少しいいか」
「…はい？」
秋大ではあまりいい成績を残せなかった野球部にも季節は移り変わり二学期の期末試験が迫っていた
図書室からの帰りに廊下を歩いていると監督から声を掛けられた
学校で監督に呼び止められることは珍しい
なんだろうと監督の元まで行くと「放課後すぐに部の教員部屋まで来てくれ」と言われ解散となった
部活動禁止期間中なのだが、そんなに急ぎの用事なのだろうか…と考えながら教室へ向かう
「失礼しまーす」
放課後、言われた通りにプレハブ小屋までやって来た
部員はそれぞれ自習をしたり食堂で集まって勉強会を開いたりしているのでこれが終われば私もそこに合流予定だ
「テスト期間中にすまないな」
「いーえー、それで？どうかしました？」
「ああ、まずはこれを見てもらいたい」
そう言って渡された一枚の紙
それを見て私は目を見開いた
「…女子、U-18メンバー招集合宿…？」
「ああ、監督を務める帝光女学院の中本監督は随分前からお前を探していたらしい」
「……中本って、あの人か」
その名前と学校名には聞き覚えがあった
シニア時代ずっと私に声を掛けてきていた癖の強い30代くらいの若い監督だ
まぁ、そのスカウトを全部蹴って私は青道に入ったのだが
「お前に女子日本代表の招集が掛かった」
「！」
「もちろん、行くよな？」
ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべる片岡監督に吊られそうになる
この人まさか、私が最初に言った「選手としての成宮Aの命」を本当に繋ごうとしてくれていたのか
「ここまでお膳立てされちゃ、断るわけにはいかんでしょ」
合宿本番は新学期が始まる少し前
まずはテスト後に予定されているメンバーの顔合わせと一日練習に参加して欲しいとの事
「(久々に公式戦でマスクが被れる……！)」
私の心は甲子園に奪われているが、やはり試合という言葉には心が踊る
対抗戦や練習で参加させてもらうことは多いが、公式戦というのはまた別格
「先方には連絡しておく、何か聞いておきたいことはあるか？」
「あ、じゃあ一つだけお願いが！」
私のお願いを聞いた片岡監督は「全く、お前は…」と少し呆れた顔をしていた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 136人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：とらお | 作成日時：2022年9月14日 23時
