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「明日ちょっと早いんで…ほんと残念だけど」
次の店に誘われないうちにおれはその集団から抜け出した
ちょっと疲れたけれどこれで義理は果たせたし二次会に行かなくて済んだしで万事OKだ
ほっとした気分で歩いていると頬に当たる夜風が涼やかで心地いい
それにふと見上げた星空が思いのほか綺麗でおれはどこかで一杯飲みたくなってきた
さっきまでサッサと家に帰るつもりだったのにゲンキンなものだ
古いビルが立ち並ぶ通りで偶然見つけた店の名は『天体観測』
どことなく懐かしい響きに惹かれて古びた木のドアを開けた
程よく落とされた照明、落ち着いた雰囲気の店内ーー いい感じだ
カウンターに座ってウィスキーのロックを頼む
気分に浸りながら最初のひとくちを含んだ時だった
「隣り、いいですか?」
斜め後ろからすこぶるいい声がした
空いてる席は山ほどあるのにおかしなヤツだと声の主を確かめれば
そこに立っているのはさっきの食事会で“ヤブ“と呼ばれていたあの男だった
近くで見て改めて思う、ーー見れば見るほど好みの顔だ
おまけにすらっと背が高いし腰の位置がとにかく高い
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「あれっ、君、さっきの合コンにいたよね、すごい偶然っ」
男はおれの顔を見て驚いた風に言うけれど、どう考えてもあやしい…、そんなわけがない
否が応でも警戒心が湧いてくる
「そんな偶然ないと思うけど」
極力冷たい声で切って返すと
「そんなに警戒しないでよ、本当のこと話すから」
男は悪びれることなくおれの隣りに座ると同じモノをオーダーした
「実はさ、君のこと気になって誘おうと思っていたのにさっさと帰っちゃうから、俺焦って追いかけて来たんだ」
それってどういう意味だ? えっと…、好意を持たれてる感じ?
会ったばかりだというのに何ともストレートな物言いに、心ならずもド○○キしてきた
顔も声も立ち姿もどストライクな男に追いかけられるなんて久しぶり過ぎて
「からかってんのか?バカにするな」と
おれは怒ったフリするのが精一杯だった
「えーっ、俺たちはじめっから惹かれ合ってると思うんだけど」
「なっ、なにを根拠にッ」
「相性もバッチリだと思う」
「なんの相性だッ」
「カ、ラ、ダ、」
「…………。 …オマエ、どうかしている…」
なんかもう、訳がわからなくなってきた
コイツの言っていることが破茶滅茶すぎて会話が成り立たない
この男ーー とてもじゃないけどおれの常識じゃ測れない
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作者名:べす | 作成日時:2022年7月12日 20時