□俺と黒ねこの不思議な話□ ページ46
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ある日の夜のことだった。
このところ仕事が立て込み残業が続いていた俺はとても疲れていた。
重たい体でバスを降りるとベンチの上に黒ねこの置物が…。
よく見るとねこは本物で金色に輝く瞳で値踏みするように俺のことをじっと見ていた。
きちんと前脚を揃えしっぽを器用に巻きつけている姿は気品さえ漂っている。
きっとどこぞの飼いねこか。
「早くうちへ帰れ、 心配してんぞ」
すると黒ねこは返事でもするかのようにその場でクーッと伸びをした。
続いてベンチから音もなく舞降りると長いしっぽを立て歩き出した。
その様子をぼんやり眺めていると黒ねこがふと立ち止まった。
そして優雅に振り返ると“ついて来て“とばかりに可愛く「にゃぁ」と鳴いた。
えぇっ、嘘だろ? 俺、誘われてる?
もちろん冗談。冗談さ。別に本気で思ったりしてないから。
なのにどういう訳か無視出来ず、ついついていきたくなる俺もかなりもの好きで…。
結局、俺は黒ねこを追いかけ歩き出していた。
ピンとしっぽを立て形のいい小さなケツをぷりぷりさせて歩く後ろ姿は
見方によってはめちゃくちゃ色っぽい…とか一瞬でも思った俺はやっぱ相当疲れてる。
しっかりしろ、相手はねこだぞ!
理性がほんのちょっと戻った時、奴がまた「にゃぁ」と鳴いた。
黒ねこは古びた扉の前で一仕事を終えたように満足げに座っている。
そこはいかにも怪しげな店の入り口
…店の名はBarキャッツアイ…
「おいおい、話が出来すぎてないか?」
漫画のような流れに俺はもう笑うしかなく
「なぁ」と黒ねこに同意を求めるも何故か奴の姿は見当たらない。
代わりに店の名を刻んだ真鍮製のプレートには黒ねこのシルエットが浮き出ていて…。
ますます出来すぎだ。絶対おかしい。ありえないだろ。
かと言って今さら帰るなんて出来る訳ないよな。だって
しこたま後悔しそうだし帰ったところで気になって眠れやしない。
俺は思い切って漆黒の扉を開けた。
出迎えたのはさっきの黒ねこ…、
いや黒ねこみたいな青年だった。
たっぷり水分を含んだ神秘的な瞳とか、ツヤツヤで柔らかそうな黒髪とか
細身だけどしなやかな体つきとか…
あの黒ねこを人にしたらこうなりましたって感じ。
その上、俺のどタイプの綺麗な顔してやがる。
こうなったら夢も現も関係ない。
是非ともお近づきになりたいものだ。
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作者名:べす | 作成日時:2022年7月12日 20時