□触れてるだけのキスをしたら□ ページ41
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今日は11月22日、良い夫婦の日だそうだ。まったく日本人は語呂合わせが好きだよな。
まぁ独身の俺には関係ない日だと思いつつ､でも何故だか胸の辺りにざわつきを覚えたりして。
やっぱり頭に浮かぶのはひかるのこと。確かに俺らは夫婦ではない。けどさ、アイツは俺の相方というか
連れ合いというか、人生のパートナーなんだよな…。ほら､これってまあまあ夫婦じゃね？
制度上とか憲法上とかややこしい事は抜きにして､精神的には立派な夫婦じゃん。なんて天井見上げて
屁理屈こねこねしていたら無性にひかるに会いたくなった。
アイツはどう思ってんだろ？当然一緒だよな､えっ違う?ただの腐れ縁的な…､だったらどうしよう。
さすがに突然訳もなく､いや俺にとっちゃ大いにあるんだけど､ひかるんちに行くのも気が引けるから
言い訳がわりにアイツの好きなモンブランを途中で買って車を飛ばした。
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夕食の片付けを済ませのんびりしていたら来客を知らせるチャイムが鳴った。インターホンカメラには
黒いキャップをちょこんと乗せたやぶの姿。「俺」「入れて」と口早に言われ気圧されるまま部屋に入れた。
「どうした?なんかあった?」驚くおれにやぶは「いや､ケーキあったから持ってきた。これ好きだろ？」
とふにゃふにゃの顔で紙袋を差し出した。どう見ても買って来たんだろうなと思うんだけど､そこはまぁ
笑顔で受け取った。正直､今日来てくれるなんてうれしい誤算だ。
「ひかる､晩めし何食った?」やぶはしきりに鼻をクンクンさせている。「ちょっと待て…この匂いは…
鍋､鍋だな」「そうだよ､鍋食った」「ひとりで鍋食ったの?」「そうだよ､わりーかよ､ひとり鍋サイコー」
嘘。ほんとは何かキセキみたいなことが起きておまえと一緒に食べれたらいいなと思ってたよ。
だって今日って…。でもおれたちって夫婦ってわけじゃないからこんな日に誘えないよね。
おれっていっつも重た過ぎるから。おれ､おまえだけには嫌われたくないから。
「ひかる」
突然やぶがぎゅっとおれを抱きしめた。そしてくぐもる声で言った。
「来年の今日は一緒に鍋食おう。一緒に酒飲もう。ずっと一緒にいよう」
「……それって…」
おまえ今日何の日か知ってんの? ちゃんと分かってて言ってる?
やぶはおれの肩に手を置き痛いほど真っ直ぐにおれを見る。
「返事は?」
「うんっ」
おれは飛びつくように背伸びしてやぶの唇にただ触れるだけのキスをした。
♥︎Fin♥︎
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作者名：べす | 作成日時：2022年7月12日 20時
