□はじまりはスパイシー□ ページ39
バーテンダーyb x 役者のたまごhk
ある日おれは劇団の偉い人がセッティングした飲み会に強制的に連れて行かれた。やっとお開きになってこれで帰れるぞと思ったらずっとおれの隣に座ってたAさんから次の店に誘われた。返事に困っていると劇団の偉い人に「Aさんは大事な支援者だから失礼のないようにな」と耳打ちされ仕方なくふたりで飲むことになった。どうやらおれに拒否権はないらしい。Aさんはいいバーがあるからとおれの肩に手を回した。
案内されたのは大人の雰囲気が漂う小さなバーだった。慣れない空気にキョロキョロしていたらバーテンダーと目が合った。その瞬間おれの心はその人に持っていかれた。
だってその人ときたらすごいイケメンで背が高くて脚も長くて、だけど横顔がちょっと冷たそうに見えてめちゃくちゃカッコいいんだもん。きっとモテるんだろうな……。だけどおれの嗅覚は彼の持つ危険な香りを敏感に嗅ぎ取った。“あの人は絶対好きになってはいけないタイプだ“
Aさんに促されカウンターに腰掛けると彼は接客用の顔でおれたちの前に立った。穏やかな笑顔もやっぱりカッコいい…好きになっちゃダメだけど鑑賞するぐらいなら構わないよな。とびきりのいい男を前についつい気持ちが緩んでしまったところに彼がハイボールのグラスを差し出した。また目が合った。おれの背骨に電流がビリリと走り体温が急上昇した。待て待て好きになっちゃダメだぞ、おれ!…てかそんな心配しなくてもおれみたいな田舎者ハナから相手にされる訳ないか…あはは…でもカッコいい…。おれの頭の中は完全に彼に乗っ取られたようで同じ思考がとめどなくループしていた。Aさんとの会話は上の空となり適当な愛想笑いと曖昧な相槌で誤魔化すばかりで。でもいつの間にか腰に手が回されていてそれがすごく気持ち悪くてふと我に返り周りを見渡せば時はだいぶ過ぎ他に客は居なくなっていた。
「そろそろ行こうか。その前に…」とAさんはトイレに向かった。Aさんが見えなくなると
「アンタ、ここ出たらホテルに連れ込まれるぞ。いいのか?」不意にバーテンダーの低い声がした。
「えっ?まさか!」「あっちはそのつもりだぜ、遠回しに誘ってただろ?」
「おれそんな…つもりじゃ…」
Aさんはおれの愛想笑いをOKと受け取ってると言う。
「で、お前はどうしたいのよ?」
「おれ絶対嫌だ……、助けて…ください」
すると彼は息がかかるほど顔を近づけ左手でおれの顎を掴み角度を上げた。
83人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:べす | 作成日時:2022年7月12日 20時