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だけどサ、
新年を迎えるからって俺たちはなんの用意もしてないぞ
俺にとって正月なんてちょっと長めの休暇って感覚だ


何かの本で読んだけど、歳神様とやらは
門松やしめ縄を目印に来るらしいよ

だけど
ここにはそんなもんなんもねぇぞ
いくら玄関を掃き清めたからって

「そんなんで歳神様は本当に来てくれるのか?」って

もし、俺が言ったら
ひかるは一体どんな顔をするのだろうか



「そっかー」って笑いながら
泣きそうな顔になるのかな


そんなこと言わないけど…、絶対



今夜はなぜかしら
つまんないことをぐるぐると考えてしまう


そんな自分にあきれて玄関に目をやると
開け放ったドアの向こうに
ちらちらと白いものが見えた


雪が降ってきたようだ



** **




ひかるはとうに気付いていたらしく
空を見上げて音もなく降る雪をじっと見つめていた


そんなひかるの後ろ姿を見ていたら、
頭の中のどこかに仕舞い込んでいた
記憶の小箱が不意に開いた


あぁ、そうだ、あの夜もそうだった
粉雪が舞う寒い夜だった



あの日、思いがけず降り出した雪を
うれしそうに見上げたひかるの横顔が

たまらなく可愛く見えて
なによりも大切なものに思えて
俺はあのとき言ったんだ


「…ひかる、一緒に、暮らそう…」って


すると、ひかるは返事の代わりに
俺の手をギューっと握りしめてくれた

ギューっと…



あの日の、あの瞬間の情景が
記憶の小箱からあざやかにあふれ出す



つんと冷えた空気
ひかるの髪に乗ったサラサラな雪
ひかるの手の温もり

俺の胸にほとばしった熱い熱い感情




*

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作者名:べす | 作成日時:2022年7月12日 20時

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