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やぶはおれの手を握り締めそのまま勢いよく走り出した
何が起こっているのかわかってないおれはただただ驚いて抵抗も出来ない
おれの体は倒れ込むように横断歩道に飛び出した
自分の手の位置と足の位置がおかしいぞ
おれ､めっちゃ引っ張られている
全身で声にならない「えっ？」を発していると
やぶは振り向きざまにもう一度言った
「行けるって」
ふざけているのか？
だけどやぶの目は明らかに真剣だ
真夏の太陽みたいなやぶの瞳がおれに向かって問いかける
“ホントは行きたいんだろ？殻なんて破っちまえよ“
瞳から声なんて聞こえるわけないのに､なんでだろう
やぶの声がおれのなかで響いたんだ
同時にあれだけうるさかった街のざわめきがパタリと聞こえなくなった
気がつけば
おれはもう引っ張られるのではなく自分の意思で走っていた
全速力で横断歩道を駆け抜ける
大きく足を広げて白線を思いっきり飛び越える
走るー走るー やぶのシャツが風に膨らむ
走るー走るー おれの髪が風に揺れる
走るー走るー 閉じ込めていた感情が溢れていく
おれ、やぶが好きだッ
渡り切ると同時に点滅が赤信号に変わった
信号待ちの車が一斉に動き出し
何も聞こえてなかったおれの耳に街の喧騒が戻って来た
やぶはまだおれの手を掴んだままだ
道路を挟んだ向こう側でみんなが呆然としてこちらを見ている
「先に行ってるな〜」
やぶはみんなに向かって叫ぶと楽しそうに手を振った
女の子からあがったブーイングは気にならないらしい
ホントいい性格してる
「発車まであと何分？」
「えっと…､あと3分」
「大丈夫、行けるッ」
やぶがそう言うと､なんかそう思えてくるから不思議だ
「うん」
おれたちは顔を見合わせるとホームに向かってまた走り出した
掴まれた手はそのままだ
＊＊Fin 『恋の瞬間 点滅の青信号』 22-09-03
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作者名：べす | 作成日時：2022年7月12日 20時
