身長差、0センチ【夜久衛輔】

あれから8年後 ページ3

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首元のリボンを留めながら、外の桜吹雪を見ることなく、出来るだけ早く歩く。

踏み潰され慣れた上履きの踵は、直すつもりはない。




3年4組の前まで差し掛かったとき、教室から目立つトサカ頭が出てきて、「お、」と私を見つけて軽く手を挙げた。





「はよーっす、(人1)。朝から疲れた顔してんなぁ」

『黒尾おはよ〜。朝練の後ちょっと顧問と色々深い話しててさぁ…てかアンタなんで4組から出てくんの』

「あー、海とちょっと色々深い話してた」

『パクんな』

「お！？暴力反対で〜す」



何だかムカついて黒尾の腹を殴ったけど、さすが鍛えてるだけあって全く動じてない。マジでムカつく。

深い話してたの本当のことだし！と後ろからワーワー言う黒尾を無視して5組の教室に入る。




「(人1)、おはよ〜」

『おはよ〜』




挨拶してくれる友達に挨拶を返して、私は自分の席へ向かう。

出席番号が最後の私。廊下側の1番後ろ。




…の、前の席の人。

通りすがりに声をかけた。





『夜っくん、おはよ〜』

「おー、おはよ。今日遅かったな？」

『明日から新入生も練習加わるからね。朝練の後顧問に呼び止められてあーだこーだ話してたらこんな時間になっちゃった。1限英語の小テストあるからこの時間に勉強したかったのに〜〜…！』

「しなくていいだろ〜。(人1)、頭いいんだから」

『夜っくん私より英語得意なくせに何言ってんの？』





英語の教科書を開く。

それを、夜っくんが閉じさせる。


また開く。閉じられる。開く。閉じられる。開く。閉じ…





『ねぇ〜〜、夜っくん何？構ってちゃんなの？』

「ごめん、(人1)、いつツッコむかな〜って思ってちょっと意地悪した」

『…まあ、黒尾だったらぶん殴ってるけど、夜っくん可愛いから許してあげてもいいよ』

「ん〜、えぇ〜？なんか色々複雑だな〜…」




その時、遠くの席の黒尾がタイミング良くくしゃみをして、私達はケラケラと笑った。

笑う狭間で、同じく笑う夜っくんを見つめる。





夜久衛輔。

ヘーゼルブラウンの色をした、ふわふわ揺れる髪の毛。

性格は男前なのに、可愛くて、笑いの沸点が低くて。






＿＿私と、一緒の目線。





「…(人1)？どうした〜？」

『何でもない。夜っくん教科書返してください〜』





トクリと脈打つ心臓を深呼吸で宥めてから、

私は今度こそ桜吹雪を眺め、入学した頃のことを思い出していた。

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