角名くんに関西弁喋らせたい。【角名倫太郎】

痛切 ページ40

.







昼下がりの、少し賑わいから外れた廊下で、流石男子と褒めざるを得ないほどの力でグッと手首を掴まれたまま。





「…やから、話すことなんかないって」

「見え見えの嘘つくなや。目ぇ合わせんからバレバレやで」

「っ…放っといてや…」





逃げられないと分かったから、手首に力を込めるのはやめた。けれど、宮侑から目線をそらしてその意思はないことを告げる。






「…もうええんよ。わがまま言わんから……角名くんと笑い合えただけで十分、やと思い込んどくわ」

「あ！？それがアカンっちゅーとんねん。角名から逃げるだけ逃げといて自分だけさも解決しましたみたいな発言しよって」

「や、って、仕方ないやん…！こうすることしか私には出来んから…！もうおそ、い…」






ぽろ、




憂いを含むそれは、あまりに呆気なく瞳からこぼれ地面に落ちていく。ぽろ、ぽろ、なんて。泣きたいとか思うてへんのにその意思に反して不器用に、地に水模様を描いていく。

ああもう、なんでとまらんの。痛い。切ない。嫌。痛い。

こんなんなら、恋なんてしたくなかった。角名くんと仲良くなんてならなきゃ良かった。ただ遠巻きに見つめているだけで良かったのに＿＿







「……(人1)ちゃん？と侑…？」

「っ…すな、くん、」







そんな時に限って耳に溶け込むのは、私の大好きなテノール。ゆっくり顔を上げれば、そこには数日ぶりに視線を合わせた角名くんがいた。







「泣いてるじゃん……おい侑、」

「誤解やから睨むなや…下手に拗らせる角名が悪いねんで？ほんま不器用やわ自分ら〜」

「うるさいさっさと(人1)ちゃんから手離してアホ移るから。一応ありがと」

「雑すぎるやろあとアホちゃうし」







ケッ、と眉毛をひそめて不機嫌そうな宮侑が私から手を離して、代わりに角名くんの温もりが手から伝わる。あたたかくて、何だか懐かしいような感じがして、また涙をこぼした。






「……泣き虫だね、(人1)ちゃんは」

「っ…角名く、」

「あ、だめだってば。角名くんじゃないでしょ」

「…り、んたろ、くん」

「よし。よく言えました。もう二度と角名くんとは言わせないからねまじで」






倫太郎くんはいつもみたいに涼しく楽しく笑って、頭を撫でながら反対の手の指先で私の涙を拭った。
それがどれほどの幸せか、噛み締めるのも勿体なかった。





けれど、根本は何も解決などしていないのだ。








.







「……こんなところで何しとるん？」

差金→←口走

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す