震える指先。 ページ37
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「き、救急車!?110番!?」
「119番ですよ」
「…緊張も他人にうつすといいのかな。みんなさっきより元気」
「何真面目に分析してんだよー」
ウォームアップが始まる前。
烏野の面々はどこか緊張した面持ちだった。
前回の苦い記憶が蘇って、
山口くんなんかは胃薬を求めていた。
そしたら仁花ちゃんまでが緊張で心臓が口から出そう、なんて言い出して、
結局いつもの烏野っぽくなった。潔子さんはそんな様子を冷静に分析していた。
今日もお美しい。
飛雄はそんな騒ぎには見向きもせず、
壁に寄りかかって1人、爪を整えていた。
私はそんな飛雄にゆっくりと近づいて、隣に座った。
「さっき及川さんに会ったよ」
「お前また及川さんに絡まれてたのか」
「トイレ行くと会うんだよな〜。あ、飛雄の顔面レシーブ鼻血事件見てたらしいよめっちゃ笑ってた」
「くっ…そ、思い出したくもねえ」
「まああれは傑作でしたよ」
「うるせぇ捻り潰すぞ」
飛雄は最近ちょっとムカつくとすぐ私の頬を摘むのが癖になってるところがあって、
今も頬に向かって手が伸びてきたからつねられる前にその手を掴んだ。
「なっ…」
「へへーん。何回も摘まれてばっかだと思う、な…?」
「……」
「…もしかして飛雄も、めちゃくちゃ緊張してるの?」
掴んだ手は少しだけど震えていて。
飛雄はバツが悪そうに私から手を離した。
「…悪いかよ。ビビるもんはビビるんだよ。
及川さんは強えからな」
「…うん」
「…どんなチームに入っても及川さんは俺よりスパイカーの力を引き出す。
だから、」
ピタリと飛雄の言葉と手が止まって、
どこか神妙な面持ちで自分の手のひらを見つめていた。
私は何て声をかければいいか迷って、とりあえず飛雄の震える両手をそっと包み込んだ。
「…は、何だよ、」
「…今の飛雄を、"コート上の王様"とか"独裁者"なんて呼ぶ人はもういない」
「…おう、」
「及川さんには…まあ敵わない、かもしれないけど。
その王冠とマントを捨てて、あの敗北を受け入れたから。
…私は、今の飛雄に心配は抱いてないよ」
悩んで、喧嘩して、悩んで、練習して。
この綺麗に整えられた指先は、あの敗北から沢山のことを学んできた。
大丈夫、なんて気軽に言うものではないけれど。
「…さんきゅ」
「ん」
飛雄の手の震えが止まったから、きっと、大丈夫なんだ。
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ましゅ(プロフ) - ヒェ〜〜〜最高すぎました〜〜〜はるかさんって、センスの塊なのもそうですけど、ツンデレを扱う天才ですよね!?!?京治くん挟むのも天才〜〜〜大好きです!! (2020年6月21日 17時) (レス) id: 01c5a5310c (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 狐さん» コメントありがとうございます!ギュンギュンしてくれたなら何よりです← 臣臣くんの小説ただいま執筆中なのでもう少しだけお待ちください〜!(^^) (2020年6月17日 17時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - チベットさん» コメントありがとうございます!そこに気づけてもらえて嬉しいです…このシリーズ完結したらぼちぼち色々書くつもりでいるのでまた覗きにきて下さいね〜! (2020年6月17日 17時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - しぃらさん» コメントありがとうございます!赤葦くん大好きなのでついつい導入させてしまうんですよね笑 はい!体調第一で頑張りますので佐久早くんの小説楽しみにしててくださいね!(^^) (2020年6月17日 17時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 虹華さん» コメントありがとうございます!そう言ってもらえてめっちゃ嬉しいです励みになります(^^) 佐久早くんの小説楽しみにしててくださいね! (2020年6月17日 17時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はるか | 作成日時:2020年5月23日 23時