好物頂上決戦【北 信介】

喜怒哀楽、紫色のパンジー。 ページ36

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北side







『北って、完璧やな。隙も見当たらへんし』






そう言われ始めたのは、いつからやろうか。


中途半端が嫌いで、何でもこなしとったら誰かがそう言い始めた。機械みたいやな、って。




完璧だ、と言われるのは嫌ではなかった。

周りがちゃんと自分を見てくれてる、評価してくれてる、そう感じたから。

偉いね、凄いね、って褒められるのが嬉しかったから。




けれど、俺やって人間や。


心臓があって、ちゃんと動いとる。呼吸しとる。

飯も食うしクソもするし、喜怒哀楽の感情も、持ち合わせとる。



やから、緊張はせんくても、悩みくらい抱えることもある。

今がそうやった。部活で色々悩み事あって、でも部員には言えんくて。



咄嗟に、犬塚の顔が浮かんだ。


無邪気で、俺によう歯向かってくるけど、バレーの熱意だけは誰にも負けんくて。

良き相談相手にもなっとった、アイツが。



最近は、豆腐がうんぬん、って言い争いしとるのも心地良くて、

なんや絆されてしもたなあ、と。







「北はさ、もっと人に甘えてもええと思う」

「そう…か？」

「おん。完璧って言われとるから自分の情けない姿見られたくないとか色々思ったりしとるかもだけど、

甘えることは、悪くないねんで。恥でも何でもない。やから全部全部、1人で抱え込んだらアカン」






11月の冷たい風が、帰路を歩く俺と犬塚の肩を震わす。


犬塚はやっぱり無邪気に、「出来れば北の弱みが知りたいし」と付け加えて、

立派な台詞を台無しにした。






「…できれば、他の人には甘えたないなぁ」

「は？アンタ私の話聞いとる？せっかく私が…」




「おん。やから、甘えるんも情けない姿見せるんも、犬塚にだけ、や」






そうでありたい。


キョトン、とした犬塚が、足を止めて、次第に顔を赤らめて。

その様子がとても愛おしくて、思わず髪に手を伸ばして、触れた。








「…ずるいなあ、」

「なにが？」



「…そんなん言われたらドキドキしかせんやろ。

他の女の子に言うたら卒倒してまうな」





俺はその言葉にため息をついて、


犬塚の頬をつねった。







「このクソ鈍感が…」

「え、なに！？顔こわ…てか痛い！」

「喧しいわ、ほら行くで」









「(こんなん言うんも、お前にだけ、なんになあ…)」






それはもう、恋やと。


俺は認めるしかあらへんかった。







視界では、紫色のパンジーが鮮やかに揺れていた。





確か、花言葉は＿＿

恋は盲目、あばたもえくぼ。→←機械ではない。

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