消えさった、蝉。 ページ32
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「(人1)サン、アイス奢ってください〜」
「出会い頭に何言うとんねん」
侑くんの言葉と、背中に張り付く制服の不快感に顔を歪ませる。
インハイから2週間。8月半ば。
あの後、男子達はインハイで準優勝という輝かしい成績をおさめた。
優勝は井闥山学院やった。3大エース、って呼ばれとる佐久早聖臣がおるところで、そりゃあ強かった。
けど、春高まで残る、って決めとったから3年生たちも、北も、どこか落ち着いとるように見えた。
…一方、私達女バレの3年は部活を引退して、
今は新チームでの体制が始まっている。
新しい主将のよりちゃんが『不安すぎるんで時々様子見に来てもらえますか、』と言うので、
夏休み、制服に身を包んで学校に足を運んでいた。
…で、様子見て帰ろうと、体育館廊下を歩いていると、
とても目立つ金髪に声をかけられたのである。
私は小さく息を吐いた。
「ホンマに引退したんすね…確か医学部?目指しとるんすよね?」
「おん。やから今猛勉強しとる…部活様子見とるんも午前中だけやし、午後もこのまま学校おって図書室で勉強しとるんよ」
「アンタハイスペックすぎやん」
「ハイスペックな侑くんが言うんそれ」
ふふ、と軽い笑みの後、静寂が訪れた。
温かい風が私と侑くんの間をすり抜ける。
蝉の鳴き声が、急かすようにはやくなっていく。
「…(人1)サン」
「ん?」
「…今更言うけど。俺、どこかでアンタが好きやったんかもしれん」
え、と掠れた声を出して侑くんを見れば。
私の顔なんて一切見ずに、壁に止まる蝉を見ていた。
「…試合で見たアンタの顔が頭から離れんのも、
試合の時と普段と表情が全然ちゃうところも、
バレーに対する想いの強さも。どこか曖昧やけど、そうかもしれん、と思うたんです」
「…うん」
「…けど、アンタ北さんのこと好きやろ。もう分かりやすいくらいあの人しか見とらんし。やから、憧れってことにしときますわ。
ホンマは忘れたつもりやったけど、なんか、ちゃんと言わんなん気したんで」
侑くんが、こっちを向いて、儚げに笑う。
忘れましたわ、なんて大ウソで。
それでも私は否定できないので、侑くんの優しさに甘えるしかなかった。
「…ごめんな。ありがとう、侑くん」
「ん。ええですよ。俺めっちゃ優しいんで」
「ふふ、激レアやな」
壁に止まっていた蝉は、いつの間にかいなかった。
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ミカ(プロフ) - 本当にこの作品を読んでいる時間が最高でした!シリーズの中でこのお話が一番好きだなって思いました。花言葉で心情の変化をを表したりするところ、流石です!!!セリフ一つ一つに深い意味が込められていて素敵でした!あと、私も北信介って名前の響き好きです(笑) (2020年5月25日 21時) (レス) id: ee1104400e (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 狐さん» ありがとうございます!語彙力!笑 嬉しいですありがとうございます^ ^ 出来たので是非読んでみてください〜!! (2020年5月24日 23時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - しぃらさん» ありがとうございます!大丈夫ですか生きてください…!ふいに北さん花絶対似合う、って思ったら調べるのにめちゃ時間かかって後悔したんですけどね(・・;) 影山くんの小説もぜひぜひ!読んでくださいね! (2020年5月24日 23時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - チベットさん» ありがとうございます!いや小説出すほどのレベルじゃないですまじで笑 実は名前にも意味があるんです、キタキツネの天敵は犬らしいので…^ ^ 影山くんの小説でも探してみてくださいね (2020年5月24日 22時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 虹華さん» コメントありがとうございます!最後の告白のところは実は書き始めたときからもう決めてました笑 意外とギザな告白好きそうだなって…笑 影山くんの小説もぜひぜひ読んでくださいね^ ^ (2020年5月24日 22時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はるか | 作成日時:2020年5月3日 22時