髪に触れる手は。 ページ26
.
北side
珍しいな、と思うた。
どんなに辛いことがあっても笑っとった犬塚が、顔をくしゃくしゃにして泣いとる。
いつもの好戦的な瞳は涙で濡れ、
その面影すら見せない。
インハイ予選の時とは違う、涙。
そっ、と。犬塚の手を優しく包む。
小さくて、脆くて。
「(こない小さな手で、色んなもん抱えとったんやな)」
主将という立場は、優位であると同時に、
呆気なく崩れやすい。
それは、1年前から主将として過ごしてきたから嫌というほど身に感じてきた。
きっと、今の犬塚もその状況や。
でも、励ましはしない。
余計に辛くなってまうから。
手を握ったまま、目を逸らさずに。
「お前はビビっとんのや。"負けたらどうしよう。終わってまう"ってな。
確かに最後の大会いうんは想像以上に特別やと思うで。負けたくないって思うんも当たり前や。
…せやけどな犬塚。お前は知っとるはずや。
試合に出れる喜びも、ブロックを欺く快感も、
___バレーボールの辛い部分も、楽しいところも。
そんなお前が、何をビビる必要があるんや。
1人やない。お前の後ろには、ちゃんと仲間がおるやろ。
やから、頼れ。そして、自惚れるんや。
お前の仲間が、お前の、お前達の強さをちゃあんと証明してくれる。
…ほんで、犬塚は犬塚らしく、いつもみたいに変わらず笑っとればええよ」
せやからもう泣き止め、と両頬を摘む。
スタメンでない俺が、偉そうに言えたことやないかもしれん。
それでも、これだけは伝えたかった。
「犬塚は、ちゃあんと、立派な"主将"や。
1年前からお前と共に過ごしてきた、俺が証明する。
…やから、主将失格とか言わんといてや」
『北さん、やたら(人1)さんには甘ないですか?』
昨日、ふいに侑に言われた言葉を思い出す。
ちゃうと思うけど、とその時は言うたけど、
「(…そんなこと、あらへんかったな)」
「きた、」
「ん?っ…と、」
「…ありがとお」
ぽす、と俺の肩に顔をうずめながら言った、たった5文字の言葉。
それは、俺の心を満たすには十分すぎた。
昨日、無意識に侑に嫉妬した理由も、
彼女にだけ、甘い理由も。
「(分かってしまいそうで、怖いわ)」
肩に顔をうずめる犬塚の髪に触れる俺の手は、少し震えとった。
.
*25話内容少し修正しました
821人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミカ(プロフ) - 本当にこの作品を読んでいる時間が最高でした!シリーズの中でこのお話が一番好きだなって思いました。花言葉で心情の変化をを表したりするところ、流石です!!!セリフ一つ一つに深い意味が込められていて素敵でした!あと、私も北信介って名前の響き好きです(笑) (2020年5月25日 21時) (レス) id: ee1104400e (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 狐さん» ありがとうございます!語彙力!笑 嬉しいですありがとうございます^ ^ 出来たので是非読んでみてください〜!! (2020年5月24日 23時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - しぃらさん» ありがとうございます!大丈夫ですか生きてください…!ふいに北さん花絶対似合う、って思ったら調べるのにめちゃ時間かかって後悔したんですけどね(・・;) 影山くんの小説もぜひぜひ!読んでくださいね! (2020年5月24日 23時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - チベットさん» ありがとうございます!いや小説出すほどのレベルじゃないですまじで笑 実は名前にも意味があるんです、キタキツネの天敵は犬らしいので…^ ^ 影山くんの小説でも探してみてくださいね (2020年5月24日 22時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 虹華さん» コメントありがとうございます!最後の告白のところは実は書き始めたときからもう決めてました笑 意外とギザな告白好きそうだなって…笑 影山くんの小説もぜひぜひ読んでくださいね^ ^ (2020年5月24日 22時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:はるか | 作成日時:2020年5月3日 22時