私を映す瞳。 ページ25
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「…犬塚、泣いとるんか」
「っ…!ちが、泣いてへん、」
「コラ、そない勢いよく目こすんなや。明日腫れるで」
「っるさ、い…北には、関係あらへんやろ…」
最悪や。
私は目をこすりながら、顔を隠すようにしゃがみ込んだ。
何でここに北がおるん、と。
そういう思考に至るより先に、こんな無様な姿を見られたのが恥ずかしかった。
北はしばらく黙り込んだ後、
キュ、キュ、と床と靴が擦れる音を響かせて、私の前にしゃがむ。
「なあ、」
「…なに」
「ボール磨き、しよか」
「………は?」
小さく笑って言う北に対して、理解が出来ずに眉をひそめる私。
意味わからん発言のせいで涙は少し引っこんだ。
北は怪訝そうな私なんてお構いなしに、散らばったボールをカゴに集めて、
こっち、と壁を背もたれにして座り、私にボールとタオルを渡した。
「これちゃんと磨いとるんか。所々汚れとるで」
「あんま磨いとらん…かも」
「可哀想になあ…犬塚のサーブで痛めつけられてそのまま放置されてんのか…」
「べ、つに痛めつけてへんし…勝手に変なこと言うんめや」
それでも、ちょっぴり罪悪感がわいて、
ごめんな、と心の中で謝罪しながらボールを磨いていく。
何でやろう。
少しだけ、ほんの少しだけ、気持ちが軽くなった気がした。
「…独り言やから聞き流してな」
「おん」
「…私にとって、インハイは最後の大会やから。当たり前のように勝ちたいと思うねん。
なのに、どこかで嘲笑う奴がおる。『お前の実力じゃ無理や』って。
そんなん嫌ほど分かっとる。やから、頑張って、頑張って練習してきとる…のに、空回りばっかりや。
情けない姿、さきちゃんにも北にも見せてしもたし…
どうしたらええんか、自分の事なんに何にも分からへんねん…主将失格やな」
ぽた、と。
さっき引っこんだはずの涙が、膝にのせたボールの上に落ちる。
ぽろぽろ、つられるように涙は溢れていく。
とまれと思うても涙は意思に反してあふれる。
涙を拭おうと目に袖を当てがったとき、
やんわりと、北にその手を掴まれた。
「すまんな、独り言、聞き流せんかったわ」
「え…っ」
す、と。
北の、大きな手が頬に伸びてきて、
こぼれ落ちる涙を、親指でそっと拭った。
「…犬塚、ビビったらアカンで」
まっすぐ。
澄んだ北の綺麗な瞳が、私を映していた。
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ミカ(プロフ) - 本当にこの作品を読んでいる時間が最高でした!シリーズの中でこのお話が一番好きだなって思いました。花言葉で心情の変化をを表したりするところ、流石です!!!セリフ一つ一つに深い意味が込められていて素敵でした!あと、私も北信介って名前の響き好きです(笑) (2020年5月25日 21時) (レス) id: ee1104400e (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 狐さん» ありがとうございます!語彙力!笑 嬉しいですありがとうございます^ ^ 出来たので是非読んでみてください〜!! (2020年5月24日 23時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - しぃらさん» ありがとうございます!大丈夫ですか生きてください…!ふいに北さん花絶対似合う、って思ったら調べるのにめちゃ時間かかって後悔したんですけどね(・・;) 影山くんの小説もぜひぜひ!読んでくださいね! (2020年5月24日 23時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - チベットさん» ありがとうございます!いや小説出すほどのレベルじゃないですまじで笑 実は名前にも意味があるんです、キタキツネの天敵は犬らしいので…^ ^ 影山くんの小説でも探してみてくださいね (2020年5月24日 22時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 虹華さん» コメントありがとうございます!最後の告白のところは実は書き始めたときからもう決めてました笑 意外とギザな告白好きそうだなって…笑 影山くんの小説もぜひぜひ読んでくださいね^ ^ (2020年5月24日 22時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はるか | 作成日時:2020年5月3日 22時