誰かが見とる。 ページ18
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調子が良い。
サーブもミスはないし、トスもいい感じ。
「ごめん!短い!」
ライトに乱れたボール。
ライト側に走れば、相手ブロックはライトに寄るやろ?
…と見せかけてレフトに上げると気づいたブロックがレフト側に足を踏み入れた瞬間が好機。
「隙ありっ」
盛大にツーアタックをかましてやる。
チッ、と悔しそうに顔を歪める相手を見て、
「(ん〜〜っ!これだからバレーは最高やねん)」
私は歓喜にのまれた。
そしてこの日、稲荷崎高校女子バレー部は17年ぶりにインターハイへの出場を決めた。
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、みんなで抱き合って喜んだ。
「(夢みたい…!良かった、)」
チラリと応援席を見れば、
そこには男バレの姿が。
…あ、北もおる。
柔らかく微笑みながら小さく拍手をする北を見てたらなぜか、分からんけど涙がこみ上げてきて、
私はそそくさと体育館を後にした。
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「…のに、アンタなんでここにおるん、北…」
「お疲れさん、って言いに来たんと、かっこつけとるんちゃうかなって思うて」
「え…?」
「…ホンマはこれでもかってくらいに泣きたいんやろ」
安心しい。誰も見とらんから。
持っていたタオルを奪われて、パサリと頭にかけられ北の顔が視界から消えた。
その優しさに、
胸で堰き止められていたものが一気に溢れ出した。
「っ、緊張、したっ、」
「…うん、」
「負けた、らっ、引退するって、決めと、って、不安やって…!」
「うん、」
「やから、ごめ、っ、安心した、らっ、涙とまら、っ」
ぐずぐずと下を向きながら弱音を吐く私を、
北は少しぎこちなく、そっと抱き寄せた。
突然のことに驚いて距離をとろうとするも、
アカン、とタオルをはぐられた。
「なにす、」
「…ちゃんと見とるからな」
「…え?」
「お前の頑張りは、努力の過程は、
…ちゃんと、誰かが。俺が、見とる」
せやからお前は大丈夫や。
そう言って笑って涙を拭ってくれる北が優しすぎて。
私は珍しく、自ら北の温もりに身を委ねた。
規則正しく聞こえる心音が私を安心させる。
「北、」
「なんや」
「ありがとうな。今日だけ素直になるから、その…もう少しこのままがええ…」
「ん、ええよ」
いつもの抗争のことなんか忘れて、
私はただ、安心感に包まれた。
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ミカ(プロフ) - 本当にこの作品を読んでいる時間が最高でした!シリーズの中でこのお話が一番好きだなって思いました。花言葉で心情の変化をを表したりするところ、流石です!!!セリフ一つ一つに深い意味が込められていて素敵でした!あと、私も北信介って名前の響き好きです(笑) (2020年5月25日 21時) (レス) id: ee1104400e (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 狐さん» ありがとうございます!語彙力!笑 嬉しいですありがとうございます^ ^ 出来たので是非読んでみてください〜!! (2020年5月24日 23時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - しぃらさん» ありがとうございます!大丈夫ですか生きてください…!ふいに北さん花絶対似合う、って思ったら調べるのにめちゃ時間かかって後悔したんですけどね(・・;) 影山くんの小説もぜひぜひ!読んでくださいね! (2020年5月24日 23時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - チベットさん» ありがとうございます!いや小説出すほどのレベルじゃないですまじで笑 実は名前にも意味があるんです、キタキツネの天敵は犬らしいので…^ ^ 影山くんの小説でも探してみてくださいね (2020年5月24日 22時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - 虹華さん» コメントありがとうございます!最後の告白のところは実は書き始めたときからもう決めてました笑 意外とギザな告白好きそうだなって…笑 影山くんの小説もぜひぜひ読んでくださいね^ ^ (2020年5月24日 22時) (レス) id: 932e8eeb07 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はるか | 作成日時:2020年5月3日 22時