． ページ33
さっきまでの切なそうな顔が嘘だったみたいに思えるくらいに、いつも通りの光景だった。
「おお、A」
『…鮑？』
深呼吸を一つして、信長の横にしゃがみ込む。
七輪に載っているのは鮑だった。
『武将みたいだね』
「武将？」
『打ち鮑、勝栗、よろ昆布。縁起を担ぐために、戦の前に食べてたんだって』
「武将…」
『あ、ごめん知らないんだったね』
気が緩んでしまったらしい。
信長たちに武将の話は御法度だったのに。
ふと信長が、何かを考えるように顔を上げた。
「俺も食ったのかなぁ」
『…は？』
気のせいだろうか、予期せぬ言葉が聞こえたような気がして、信長を見上げた。
「戦国時代を生きた織田信長である俺も、これを食ったのかな？」
『な、に言って、』
なんでもないような顔をして見下ろしてくる信長。
手や足がガタガタと震えてくる。
夢でも見ているのだろうか。
…信長が、『織田信長』を、知っている？
一体いつから？
何を、どこまで。
聞きたいことが多すぎて動けない私を現実に引き戻したのは、背後から聞こえた何かが後ずさるような音だった。
振り返れば、両手を口に当ててこちらを凝視するみやちゃんがいた。
『聞いてたのね、』
「…申し訳ありません」
みやちゃんが木陰から出てこちらに歩いてきた。
「知ってたのですか？ご自身が、織田信長のクローンだということを」
「ああ。俺だけではない。秀吉も、黒田も、武田も伊達も。そして家康も。特進クラスの全てが戦国武将のクローン。そうだよな」
『…』
「信長くん！」
私もみやちゃんも、何も言うことが出来なかった。
私たちが武将のことを黙っていたことを、信長はどんな気持ちで見ていたんだろう。
気がつけば信長は居なくなっていて、ご丁寧に二人分焼いてくれていた鮑だけが残されていた。
『ごめん、私先帰るね』
「え？Aちゃん！？」
亡くなった父と、ペリーさんの一件以来音信不通になってしまった兄。
二人の他に私が頼れるのはもうあの人しかいない。
荷物を取るために教室へ向かいながら、カードフォンを開いて連絡先を辿った。
─────────────────────────
家に帰ると、その人は既に家の前で待ってくれていた。
「あなたから連絡が来るなんて思ってなかったわ」
『急にお呼びたてしてしまってごめんなさい。お久しぶりです。─────信長ママ』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 503人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美優(プロフ) - 有紀さん» 初めまして！コメントありがとうございます☺️私も最近続きを書きたい欲が出てきました！気長にお待ちいただければ嬉しいです！ (4月14日 14時) (
レス) @page31 id: c086026ca6 (このIDを非表示/違反報告)
有紀(プロフ) - 初めまして、このドラマが好きで読ませていただきました。続き楽しみにしてます。 (3月29日 18時) (レス) id: 1322499c70 (このIDを非表示/違反報告)
美優(プロフ) - ななさん» お久しぶりです！嬉しいです✨ (3月22日 15時) (レス) id: c086026ca6 (このIDを非表示/違反報告)
なな - TVerで配信開始されたので懐かしくなりまた読みにきちゃいました。 (3月6日 23時) (レス) id: 114e35bcaa (このIDを非表示/違反報告)
美優(プロフ) - らんさん» ありがとうございます！最近は更新できていませんが、読んでくださる方がいると思うと嬉しいです😊 (2023年4月15日 18時) (レス) id: c086026ca6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆう | 作成日時：2022年8月30日 10時
