その玖 ページ31
「俺は、貴様に旗印を掲げる」
その日の休み時間、お手洗いから教室に戻ると中から信長の声が聞こえた。
信長と徳川くん、兄の一件が落ち着いたというのに、信長は何を考えているのだろうか。
教室には二人の他に誰もいないらしく、入りづらくて足を止める。
「Aちゃん?」
『しっ!』
そこにみやちゃんがやってきたので、その腕をひいた。
バレないように教室の中を指差すと、察してくれたのかみやちゃんも黙ってドアの影に立った。
「なぜだ」
以前はあんなにも戦いにこだわっていた徳川くんも、今ではすっかり別人のようで、信長の言葉が理解できない様子。
「全て終わらせるためだ」
『…全て?』
「この家康に勝利することで、お前の言う全てが、終わるのか?…ならば、所詮お前も、敵か…!…叩き潰す」
何かを耐え、絞り出すような声の徳川くんに、信長は苦しげに目を伏せた。
「何だ、その悲しげな目は?それが、挑む者の顔か!」
動揺が抑えられない様子の徳川くんが、そのままこちらに向かってくる。
隠れようにも隠れられず、気まずい私たちを徳川くんが一瞥した。
が、何も言わずに行ってしまった。
『信長、』
教室に入り、取り残された信長を見る。
「今の話は、本当でしょうか。どうして家康くんと」
信長は何も言わず、ただ目線を下に向けていた。
「私、みなさんを呼んで来ます。ちゃんと説明してください」
『あ、みやちゃん、』
黙ったままの信長を見兼ねたみやちゃんは、さっさと教室を出て行ってしまった。
「…」
『とりあえず、座ろっか』
近くから椅子を二脚引いてきて座る。
促すと信長も隣に座ってくれた。
『一人で、何抱えてるの?』
「…今は言えない」
『…私にも、?』
「………」
信長が辛いことを背負っているなら、何か悩んでいるなら、少しでも軽くしてあげたい、と思ってしまうのは、迷惑だろうか。
どんな些細なことでもいいから、苦しいときは打ち明けてほしい。
頼ってほしい。
だけど、信長はこれ以上口を開くつもりはないようだった。
『わかった。私からは何も聞かない。…けど、抱えきれなくなったらいつでも言って。何があっても離れたりしないから』
「A…」
やっと信長と目が合った。
その綺麗な瞳は、葛藤を映し出していた。
大丈夫だよ、と手を包み込む。
私より大きなはずの信長の手が、今は小さく感じた。
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美優(プロフ) - 有紀さん» 初めまして!コメントありがとうございます☺️私も最近続きを書きたい欲が出てきました!気長にお待ちいただければ嬉しいです! (4月14日 14時) (レス) @page31 id: c086026ca6 (このIDを非表示/違反報告)
有紀(プロフ) - 初めまして、このドラマが好きで読ませていただきました。続き楽しみにしてます。 (3月29日 18時) (レス) id: 1322499c70 (このIDを非表示/違反報告)
美優(プロフ) - ななさん» お久しぶりです!嬉しいです✨ (3月22日 15時) (レス) id: c086026ca6 (このIDを非表示/違反報告)
なな - TVerで配信開始されたので懐かしくなりまた読みにきちゃいました。 (3月6日 23時) (レス) id: 114e35bcaa (このIDを非表示/違反報告)
美優(プロフ) - らんさん» ありがとうございます!最近は更新できていませんが、読んでくださる方がいると思うと嬉しいです😊 (2023年4月15日 18時) (レス) id: c086026ca6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆう | 作成日時:2022年8月30日 10時