愚者の想い ページ38
カランカラン…
賑やかなパブにドアベルの乾いた音が鳴った。最近からまたこのパブに通い始め、再び常連客となっていた。…といっても仕事の都合上頻繁に来れるわけではないが…。その日の夜の彼の顔は浮かない顔だった。
彼はいつものようにいつも座っている席に座った。ドカッと腰を下ろした背中は少し、寂しそうだ。その横に黒い髪の白いドレスを着た女性が座った。マリーだ。彼女とは、パブで会うと愚痴を言い合うような仲になっていた。
「どうしたの?アドム。なんだか元気がないじゃない。」
「…別に。マスター、いつもの。」
「はいはい。ちょっと待ってて頂戴。」
そう言うと、マスターは店の奥へと消えていった。マリーは、アドムの事を心配そうに見ながら再び話しかける。
「何かあったの?私でよければ聞くわよ?」
カラン…
とマリーは自分の手に持っていたグラスの中に入った角張った氷を、長くて細い人差し指で器用に回した。氷の冷たい音がグラスの中で反響した。
「いや、いい。」
あっちへ行ってくれ…。そう思うアドムの心の声が彼女に聞こえた気がした。彼は彼女の目をみることはせず、ただじっとどこかを見て、上の空と言った感じた。マリーは静かに席を立ち、他の人のところへ行った。
それからしばらくして、氷の入ったグラスにいっぱいのジンを片手にマスターがやって来て、彼の前にグラスを置き、そのままカウンターに向かい合って頬杖をついた。いつもの雰囲気と違うアドムの様子を見たマスターも口を開いた。
「あら、アドムちゃん。元気ないわね。どうしたのかしら〜?」
アドムはチラリとマスターの目を見た。そして、グラスに入ったジンをグイッと勢いよく飲んだ。
ゴトンッとグラスを置いたとき、氷のぶつかる音が小さくなった。アドムは意を決して口を開く。
「なぁ、マスター。………俺、……俺がもし、本気で好きな人ができたって言ったら………変?」
「………え?」
カラン……
グラスの中に入った氷が乾いた音を立てて崩れる音が小さく木霊した。
マスターは大きな目をパチクリさせてしばらく彼が何を言っているか分からないというような表情でアドムを見た。
アドムは余りにもマスターが何も言わないで黙っているから、その空気に耐えかねて手に持ったグラスに入った酒を飲み干す。
何故だろう……今日は全く酔いがまわってこない…
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もなか@中身はこしあん(プロフ) - 麗華さん» 学校はじまると何かと忙しいですからね(´-ω-`)麗華さんも暇なときでいいので見に来てくださいね~♪ (2015年9月7日 17時) (レス) id: 42910bbd46 (このIDを非表示/違反報告)
麗華 - もなか@中身はこしあんさん» いえいえです(*・ω・*)学校始まっちゃいましたもんね…やだなぁ(笑)第一章完結お疲れ様でした!番外編も第二章も楽しみにしてます♪ (2015年9月5日 23時) (レス) id: 525612bbb2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 麗華さん» ありがとうございますっ!(っ´ω`c)更新ペースはこれから少し落ちると思いますが、よろしくお願いします。まだまだ序の口ですから、第二章ではもっとドロドロにしていきますよ~(`・ω・´) (2015年9月1日 7時) (レス) id: 42910bbd46 (このIDを非表示/違反報告)
麗華 - もなか@中身はこしあんさん» 「私が来てない間にかなりお話が進んでいる(;°Д°)」とビックリしました(笑)折角なので最初から読み返してみました♪途中で感動して泣いちゃいました…これからも更新楽しみにしてます^^波乱の第二章に突入だ!((黙r (2015年8月31日 16時) (レス) id: 525612bbb2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - しゅうさん» 素敵だなんてっ…そんなっ…(*゜д゜*)とっっても嬉しいです!!ありがとうございます! (2015年8月13日 2時) (レス) id: 42910bbd46 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もなか | 作成日時:2015年5月30日 19時