焼き付いた記憶 ページ31
昼間とは打って変わって真っ暗な長い廊下をアドムは足早に歩いていた。脈打つ心臓の音を掻き消すように。
最近、アドムは自分の様子がおかしいことに気づいていた。きっかけは、そう、あの夜。Aの口から漏れた言葉。
「…………アドム…好きよ。」
頭にフラッシュバックする映像に再び彼の心臓は音を立てた。時々、一瞬フラッとその時のことを思い出して胸が苦しくなることがあった。そんなときは、ちょっとでもAから遠ざかってしまわなければどうにかなってしまいそうな気がし、彼女から距離をとった。
何ともいえない不思議な感覚。
アドムは、歪んだネクタイを片手で器用に直した。
地下への階段を静かに降り、自分の部屋に入る。寝巻きに着替え、かたくて居心地の悪いベッドにドサッと身体を倒す。大きく息をつき、身体をベッドに預ける。
そして、眠ろうとして目を閉じてみるが瞼の奥に張り付いて取れないのはAの先程の姿。薄い布を巻き自分に近寄る姿。あの布の微妙な薄さは彼女の綺麗な体のシルエットをより綺麗に、妖艶に魅せていた。自分だけに見せるあの恍惚とした表情。自分を求めるあの声。再び息苦しくなってきたアドムはゆっくりと目を開けた。目を開けるとそこには彼女の姿ではなく薄汚い闇に包まれた天井が広がっていた。
「………どうしたんだろう……俺…。」
眠ろうとしても、焼き付いた記憶が邪魔をして彼を眠らせようとはしなかった。今までこんなことなどなかった。どうして?どうしてなんだ?
記憶が走馬燈のように頭の中グルグルと回っていく。そして、ある一片の記憶が彼の中にピタリと止まる。
「素敵な方ね。」
そう言って遠くを見つめる彼女の顔。容姿も、家柄も完璧な素晴らしい婚約者。
アドムは苦しそうに寝返りを打った。粗末なベッドはギシギシと不穏な音を立てなった。
二人で楽しそうに笑いあう未来の夫婦。幸せそうな光景。
いつも目の前にいて、自分の手中に会ったはずの彼女が段々遠くに行くのを想像し、この暗くて狭い部屋が余計に、彼を不安にしていった。彼は自分の心臓に自然と手を当てる。ドクン、ドクンと一定のリズムを刻んでいる鼓動はいつもより低く早い気がした。
数分後、彼は自らの思考に迷い込むように夢の中へ堕ちていった。
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もなか@中身はこしあん(プロフ) - 麗華さん» 学校はじまると何かと忙しいですからね(´-ω-`)麗華さんも暇なときでいいので見に来てくださいね~♪ (2015年9月7日 17時) (レス) id: 42910bbd46 (このIDを非表示/違反報告)
麗華 - もなか@中身はこしあんさん» いえいえです(*・ω・*)学校始まっちゃいましたもんね…やだなぁ(笑)第一章完結お疲れ様でした!番外編も第二章も楽しみにしてます♪ (2015年9月5日 23時) (レス) id: 525612bbb2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 麗華さん» ありがとうございますっ!(っ´ω`c)更新ペースはこれから少し落ちると思いますが、よろしくお願いします。まだまだ序の口ですから、第二章ではもっとドロドロにしていきますよ~(`・ω・´) (2015年9月1日 7時) (レス) id: 42910bbd46 (このIDを非表示/違反報告)
麗華 - もなか@中身はこしあんさん» 「私が来てない間にかなりお話が進んでいる(;°Д°)」とビックリしました(笑)折角なので最初から読み返してみました♪途中で感動して泣いちゃいました…これからも更新楽しみにしてます^^波乱の第二章に突入だ!((黙r (2015年8月31日 16時) (レス) id: 525612bbb2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - しゅうさん» 素敵だなんてっ…そんなっ…(*゜д゜*)とっっても嬉しいです!!ありがとうございます! (2015年8月13日 2時) (レス) id: 42910bbd46 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もなか | 作成日時:2015年5月30日 19時