宴が始まる ページ36
私が休憩から戻ると『大客間まで来て欲しい。』そう書かれた紙が机の上においてあった。綺麗で繊細な筆遣いからして一目でハクが書いたものだと分かった。そして、ハクの姿はなく、近くで働いているはずの父役たちも居なくなっていた。
あれ?おかしいな…。
そんなことを思いながら大客間へと向かう。
いやに静かな油屋。客の姿は見あたらなく、浴場からはもくもくと白い湯気だけがたっている。いつもなら聞こえるお囃子の音すらも聞こえない。少し心細くなってきたときだ。
「おーい、A!」
「あ、紫苑!」
長い廊下の先に紫苑が手を振ってたっている。小走りで駆け寄ると紫苑が眉をひそめながら怪訝そうな顔で話し出した。
「なんか、俺が茶を飲みに行ってる間にこんな髪が置いてあってさ。」
そう言って懐から一枚の紙を取り出す。そこにはつたない筆遣いでこれもまた大客間へ来て欲しいと書いてある。字からして青蛙だろう。
「あ、私もね。同じようなのハクから貰ったの。」
「なんだ?これ、果たし状か?」
紫苑が冗談めかしにそんなことを言う。私達は肩を並べて大客間へ向かった。
大客間の大きな襖。絵が描いてあり派手で華やかな襖。依然として油屋は明るく、静けさに満ちている。少し、気味が悪く感じてしまう。
少し緊張した面もちで紫苑と目配せしながら襖に手をかけようとしたときだ。
襖が勢いよくスッ!と開いた。目の前には油屋中の従業員達と顔馴染みのお客様達が笑顔で並んでいた。
驚きから目をパチパチさせて、声も出せずにいるとリンが言った。
「A、おかえりなさい。」
続いてひとりの兄役が言う。
「紫苑の兄貴!ようこそ油屋へ!」
その声と同時にならされるクラッカー。そして、湧き上がる拍手と歓声。
私の目から嬉しさから来る涙がポロリと落ちる。
「皆っ!ありがとうっ!」
私が言うのを合図に皆がどっと駆け寄ってくる。花束を渡され、歓迎の言葉をもらい、私の胸はいっぱいになる。チラリと紫苑の方を見ると兄役たちから胴上げまでされていた。少し恥ずかしそうに顔を赤らめ、くしゃっと嬉しそうに笑っていた。
「ほら、席についたついた!」
皆に背中を押され、席に着く。
父役が大きな声で音頭をとる。
「えー…では、皆様!主役も到着したところですし乾杯の音頭をとらせていただきます。」
「乾杯!」
元気な声が大客間に響いた。
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レモン(プロフ) - はじめまして、ハクも格好いいけど紫苑の方が可哀相に思えて、紫苑が好きになってきました。これからも応援してます! (2019年1月20日 22時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - ほほぅ…誤って評価を…ならあなたのかわりに私がいれないでおきます((ニコッ あ!ごめんなさい。誤作動でおしちゃいました★ (2018年12月15日 21時) (レス) id: 7e3c093cf9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し43692号(プロフ) - 作者様から返事が、、!ありがとうございます(^O^) 紫苑君の活躍期待してます!笑 ずっと応援してます(^-^)/ (2016年3月26日 19時) (レス) id: 9d06ba8ba1 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 季紀さん» 季紀さん!?君の手シリーズ読んでました!(`・д・´)売ってる本みたいだなんて…そんなそんな…!ありがとうございます!これからも頑張らせていただきます! (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 名無し43692号さん» ありがとうございます!紫苑君、これから結構活躍するはずです!見届けてあげて下さい!よろしくお願いします!(´▽`)ノ (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もなか | 作成日時:2015年11月19日 1時