身にしみる優しさ ページ29
私は、思わず己の口から出てしまった“綺麗”という一言に慌てて弁解しようとしたが、しようと思えばするほど言葉はこんがらがってしまい、思うようには話せなかった。
ただ、綺麗と思ったことは嘘ではない。これは、確かだった。
「ちっ違う。その…べっ別にそんな変な意味ではない。」
「フフッ。分かったから」
彼女がにっこりと微笑む。私は、些細なことで取り乱してしまった恥ずかしさから彼女から顔を背ける。
無機質で、何もない私の部屋。薄暗くて、静寂が支配している私の部屋。けれど、それほど心細くはない。下の階からは、お客の話し声やお囃子の音が聞こえてくる。
しばらくの沈黙。嫌な沈黙ではなかった。穏やかな、気の休まるそんな沈黙。きっと彼女と一緒だからだろう。彼女は口を開いた。
「ハク、そろそろ私戻らないと…父役に怒られるよ。」
「そうだね。引き止めてごめん。」
そう言うと彼女は、なにか他にも言いたげな顔をする。少し、頬が紅色に染まっている気がする。
「ねぇ、ハク。」
「ん?何?」
「その…えっと…手。」
「手…?あ!ごっごめん。」
そういえば、さっきから手が温かいと思っていたが、どうやらAの手を握ったままだったようだ。あまりの恥ずかしさに私の頬も赤く染まっていくのが分かる。互いの齢も18だ。さすがに気恥ずかしくはなる。
「うっうん。じゃぁ、ゆっくり休んで。」
そう言って微笑む彼女。片耳の耳飾りがきらきらと光る。少し、私の胸がチクリと痛んだ気がした。
彼女が出て行った後、訪れる静けさ。聞こえるのは下の階からのお客の話し声やお囃子の音だけでどことなく心細さがあふれる。
少し痛む腕。ハクは自分の手を見つめた。傷が痛むからではない。彼女の手を握った感触がまだ鮮明に残っていた。暖かくて、自分の手より小さな彼女の手…。しばらくハクは手を見つめた後再びとろとろと眠くなるのを感じた。彼は瞳を閉じる。脳裏にはまだAの先程の恥ずかしそうに頬を赤らめた顔が浮かんでいた。
紫苑にも先程のような顔を見せているのだろうか…?
ふと、眠りにつく直前。彼はそう思った。再び彼の胸が締め付けられる。彼はそんな思いとともに眠りに堕ちていった。
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レモン(プロフ) - はじめまして、ハクも格好いいけど紫苑の方が可哀相に思えて、紫苑が好きになってきました。これからも応援してます! (2019年1月20日 22時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - ほほぅ…誤って評価を…ならあなたのかわりに私がいれないでおきます((ニコッ あ!ごめんなさい。誤作動でおしちゃいました★ (2018年12月15日 21時) (レス) id: 7e3c093cf9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し43692号(プロフ) - 作者様から返事が、、!ありがとうございます(^O^) 紫苑君の活躍期待してます!笑 ずっと応援してます(^-^)/ (2016年3月26日 19時) (レス) id: 9d06ba8ba1 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 季紀さん» 季紀さん!?君の手シリーズ読んでました!(`・д・´)売ってる本みたいだなんて…そんなそんな…!ありがとうございます!これからも頑張らせていただきます! (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 名無し43692号さん» ありがとうございます!紫苑君、これから結構活躍するはずです!見届けてあげて下さい!よろしくお願いします!(´▽`)ノ (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もなか | 作成日時:2015年11月19日 1時