ぶつかる視線と思い ページ23
「……で、いつからいたんだよ。」
紫苑はAの部屋から出た後、ハクをつかまえ彼女の部屋から少し離れた所で事情聴取をする。一方のハクは申し訳なさそうな顔を一切してはいない。
「さぁ…。……其方達の邪魔をしたくないから話が終わるまで待っていただけだ…。」
別に盗み聞きしようと思ったのではない…。とハクはボソッと呟いた。
「あそー…。案外優しいんだな。ハク様。」
「皮肉にしか聞こえないな。」
「当たり前だろ?皮肉だし。」
はぁ…。とハクは重いため息をついた。一方の紫苑もAの部屋から出てきたときの顔とは打って変わってとても怖い顔をしている。
しばらくの沈黙。遠くの方で汽車の汽笛が細長く聞こえ、すぐ近くではチュンチュンと雀の鳴き声が聞こえ、外はとてものどかだ。しかし、この建物の、この場所を流れる時は暖かいものではなかった。
先にこの沈黙を破ったのは紫苑だった。
「はぁ…ま、いいけど。俺、疲れてるから早く寝たいし。じゃ、お疲れハク様。」
そう言ってポンとハクの背中を叩こうとしたそのとき、その手をハクはガシッと掴んだ。
「私にその手は通用しない。」
「へぇ〜…やるじゃん。」
ハクに掴まれた方の紫苑の手はバチバチと小さな雷を光らせていた。まるであの兄役の手を握った時みたいに。
意地悪く見下すようにフンッと笑った紫苑は、ハクの手を振りほどき、そのままスタスタと歩いていってしまった。一方のハクも彼とは背を向けて歩き出した。
久しぶりの再会。遠出の仕事に出かける前にAと二人っきりで話したいと思ったハクは彼女の部屋に向かった。邪魔者がいないと思い、少し期待していたのだが、それは後悔に変わった。
「好きだ…。」
紫苑と別れた後も、ドア越しに聞こえた紫苑の声がハクの耳から離れない。会話が全部はっきりと聞こえたわけではないが、その部分だけは鮮明に聞き取れた。仕事をしているときとは違う…紫苑の囁くような声。
Aがそれに対してどのように受け答えしたのかははっきりとは聞こえなかった。彼女は、彼の言葉に対してどのような表情で答えたのか…。
顔を赤らめてにっこりと微笑むAの顔を思い浮かべると胸の中に黒いものがどっと押し寄せてくるような気がした。
その黒い者は己の肺腑に忍び込んでくる…何ともいえない独特の感じ。
ハクは耐えきれず深呼吸した。
それでも心臓はキリリと傷んで彼の胸を締め付けた。何が原因でこうなっているのかも分からない。
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レモン(プロフ) - はじめまして、ハクも格好いいけど紫苑の方が可哀相に思えて、紫苑が好きになってきました。これからも応援してます! (2019年1月20日 22時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - ほほぅ…誤って評価を…ならあなたのかわりに私がいれないでおきます((ニコッ あ!ごめんなさい。誤作動でおしちゃいました★ (2018年12月15日 21時) (レス) id: 7e3c093cf9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し43692号(プロフ) - 作者様から返事が、、!ありがとうございます(^O^) 紫苑君の活躍期待してます!笑 ずっと応援してます(^-^)/ (2016年3月26日 19時) (レス) id: 9d06ba8ba1 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 季紀さん» 季紀さん!?君の手シリーズ読んでました!(`・д・´)売ってる本みたいだなんて…そんなそんな…!ありがとうございます!これからも頑張らせていただきます! (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 名無し43692号さん» ありがとうございます!紫苑君、これから結構活躍するはずです!見届けてあげて下さい!よろしくお願いします!(´▽`)ノ (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もなか | 作成日時:2015年11月19日 1時