不安と優しさ ページ19
今日も大繁盛の油屋。きっとこの最上階の片隅で、湯婆婆がニンマリと薄気味悪く笑っているのだろう。もうすぐ夜が明ける。外がもう大分明るくなってきた頃に油屋の灯りも消えていった。
あんなにお囃子やら何やらの音で盛り上がっていた油屋も今はシンと静まり返り、万戸静寂に満ちている。
私は、最上階の一角にある私の部屋へと向かう。もちろん、下っ端である紫苑は一人部屋など割り振りされるはずなく、兄役達と同じ部屋で寝泊まりするのだろう。先程、下で「はぁ!?何でだよ!?」と駄々をこね、再びハクにたしなめられていた。ハクの部屋は私の部屋から二つほど部屋をはさんだ所にある。
久しぶりに入る自分の部屋。埃まみれになっているはずの部屋は、意外にも綺麗だった。
ハクが掃除をしてくれていたのだろうか…?
そんな事を考えながら、湯あみをし、一息つくとホッとしたのか、一気にどっと疲れが押し寄せる。
下の階の皆ももうぐっすりと眠っている頃だろう。陽の光が私の部屋に優しく差し込む。布団に入ることも忘れて少しまどろんでいたときだ。
バンバンバンッ!
私の心地の良いうたた寝は窓硝子を叩く音によって壊される。ふと、窓を見ると紫苑が真っ黒な筋斗雲に乗っていた。びっくりして窓を開けると、そのまま彼は部屋に流れ込んできた。
「え!?何?どうしたの?」
「えーっ!この広さで一人分かよ。いいな〜…あんなむさ苦しいところで寝てっと俺まで蛙頭になる。」
人の問いを全く無視し、紫苑は物珍しそうに部屋を一周グルッと回ると中央においてある机の前にドカッと腰を下ろした。
私もつられて彼の隣に腰を下ろす。
「何か飲む?」
「ん?…いや、いい。」
そう言いながら何かをじっと見つめる紫苑。彼の目線を辿る。それは、千尋から貰った羊羹だった。
「羊羹…食べたいの?」
「別に…そういうんじゃないし。なぁ…A。」
何?と答える前に私は彼に引き寄せられた。そのまま紫苑の胸の中にすっぽりと収まる私。私よりもたくましくて、見た目によらず筋肉がある腕が、優しい腕が私を包んだ。
でも、其の腕は少し震えているような気がした。
「………紫苑?」
「好きだよ…A。」
消え入りそうな其の声。油屋で働いていた時のような強気で、張りのある声を上げていた人とは全く別人だ。
でも、この声を私はずっと前から知っている。彼は、なぜだか時折こうして甘えてくる。
219人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
レモン(プロフ) - はじめまして、ハクも格好いいけど紫苑の方が可哀相に思えて、紫苑が好きになってきました。これからも応援してます! (2019年1月20日 22時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - ほほぅ…誤って評価を…ならあなたのかわりに私がいれないでおきます((ニコッ あ!ごめんなさい。誤作動でおしちゃいました★ (2018年12月15日 21時) (レス) id: 7e3c093cf9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し43692号(プロフ) - 作者様から返事が、、!ありがとうございます(^O^) 紫苑君の活躍期待してます!笑 ずっと応援してます(^-^)/ (2016年3月26日 19時) (レス) id: 9d06ba8ba1 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 季紀さん» 季紀さん!?君の手シリーズ読んでました!(`・д・´)売ってる本みたいだなんて…そんなそんな…!ありがとうございます!これからも頑張らせていただきます! (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 名無し43692号さん» ありがとうございます!紫苑君、これから結構活躍するはずです!見届けてあげて下さい!よろしくお願いします!(´▽`)ノ (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:もなか | 作成日時:2015年11月19日 1時