漏れる言葉 ページ16
長くて重いため息をつく。先程の紫苑との言い争いのせいで頭に血が上り色々な思いがうかんでは沈み、沈んでは浮かんでを繰り返す。
ふと、思い出したように顔を上げ、Aが座っていた方を見る。そして、彼女の残していった帳簿の冊子を手に取り見つめる。
やっぱり綺麗な字だ。繊細で、しなやかで、品がある。いつ、どこでこんな品を身につけたものか。思わず笑みが零れる。
「ねぇ?ハク?…なに見てるの?」
不意にかけられる声。
「え?いやっ!…ごほん。何でもないよ。千尋。」
私は、慌ててその冊子を机の引き出しにしまう。
声をかけてきた相手は千尋だった。高い位置に結ったポニーテールは、昔のままだ。
千尋は、少しその引き出しの方を見つめていたが、あまり気にもとめない様子で私の方を見た。
「ねぇ、ハク!Aちゃん帰ってきたんでしょ?…何処にいるの?」
「今、ちょっと席を外しているんだ。伝言か何か?」
ううん。と千尋は首を横に振ると懐から紙に包まれた羊羹を取り出して私に差し出した。
「Aちゃん渡してほしいの。この羊羹、好きだったの。」
そういって嬉しそうに微笑む千尋。私の心の中にじんわりと温かいものが広がった。
分かったといって、受け取ると千尋は他にも用があるらしく声を潜めた。
「ねぇ…ハク。Aちゃんどんな感じになってた?」
「どう?……どうって…綺麗になってたよ。」
「そうなの!昔から可愛いかったけど…あぁ〜早く会いたいな〜!」
「大人っぽくなってたよ。綺麗な黒髪でね。唇には赤い紅を差して…」
不思議だ…。千尋の前ではこんなにも正直なれる。言えないと思ってた言葉が次から次へと出てくる。きっとこれは…千尋のことが…。
「そう言えば…一緒に男の人も来たんでしょ?…どんな人?」
紫苑のことだ。
私の心臓がどくんと嫌な音を立てた。
「紫苑っていうんだ。…生意気で…五月蠅くて…どうしてAと一緒に旅をしてきたのか…」
「二人で旅してたの?」
「そうみたいだね。」
「…じゃぁ、つき合ってるのかな?」
その千尋の一言に、私はドンと頭を強く殴られた気がした。
「…………それはないみたいだよ。」
絞り出されたその言葉。一方の千尋は、本当かな〜。と眉を潜めて考えている。
私の心の中にもやもやが広がった。
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レモン(プロフ) - はじめまして、ハクも格好いいけど紫苑の方が可哀相に思えて、紫苑が好きになってきました。これからも応援してます! (2019年1月20日 22時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - ほほぅ…誤って評価を…ならあなたのかわりに私がいれないでおきます((ニコッ あ!ごめんなさい。誤作動でおしちゃいました★ (2018年12月15日 21時) (レス) id: 7e3c093cf9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し43692号(プロフ) - 作者様から返事が、、!ありがとうございます(^O^) 紫苑君の活躍期待してます!笑 ずっと応援してます(^-^)/ (2016年3月26日 19時) (レス) id: 9d06ba8ba1 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 季紀さん» 季紀さん!?君の手シリーズ読んでました!(`・д・´)売ってる本みたいだなんて…そんなそんな…!ありがとうございます!これからも頑張らせていただきます! (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 名無し43692号さん» ありがとうございます!紫苑君、これから結構活躍するはずです!見届けてあげて下さい!よろしくお願いします!(´▽`)ノ (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もなか | 作成日時:2015年11月19日 1時