揺れる黒髪 ページ15
「おっと。これは悪かったな。“ハク様”」
「悪びれる様子が全く見られないな。」
「当たり前だろ?悪いって思ってねーし!」
「ちょっと!紫苑!」
止めて入ろうが後の祭り。二人は共に目に火花をとばすがごとくにらみ合う。紫苑は、机から飛び降りる。Aの方からでもハクのあからさまに怒った目つきに再び背中に冷や汗が浮かぶ。Aは、筆を硯に置き、紫苑の水干をくいっと引っ張るが引き下がろうとはしない。
そんな帳場の異変に気づいたのかお客様や、湯女や兄役がちらちらと視線を送っていた。
「はぁ…。其方は何故そう私に突っかかる?私が何かしたのか?」
「さぁな。まぁ、俺だって理由なく突っかかるほど馬鹿じゃねぇけど?」
「へぇ…。そう思っているのは其方だけかもしれないな。馬鹿は自分のことも分からないというしな。」
「ふーん…言ってくれるじゃねぇか…!!この野郎!」
売り言葉に買い言葉。口調が段々激しくなる二人。ついに紫苑の手が拳の形になったことをAは、見逃さなかった。
紫苑は優しく、純粋だが、その反面怒りっぽくて、暴力的な一面もあることをAは知っていた。
彼女の頭の中に危険信号のアラームがなり、紫苑をハクから引き剥がす。
「ねっねぇ!紫苑!!ちょっと休憩しない?私、疲れちゃったし…ね?行こう!」
「は?ちょっ…A!?」
Aは、そんな紫苑を引っ張り、帳場から行き離す。
はぁ…。なんでこう紫苑は喧嘩腰なのか…。理由は薄ら分かってはいる。紫苑は、優しいから私のことを思ってこうなっているだけだ。彼への申し訳なさがため息になって漏れた。
紫苑の手を無理やり引っ張ってその場を後にするAの後ろ姿を私はじっと見た。
あの、手を引っ張られているのが紫苑ではなく私だったのはもう彼女の中では過去形になってしまっていて、今、この現状に私だけが置いてけぼりにされているような気がした。
彼女は変わった。成長した。綺麗になった。さっきの“綺麗”には、A自身がという意味も含んでいたが、照れくさくて言えなかった。
私はちゃんと…
--------------変われているだろうか?
この油屋に縛り付けられて、時間も何もかも、私の心でさえも止まったままで。
そんな目に見えぬ不安を私は心の隅っこにそっと閉まった。
お茶を飲もうと湯飲みに手を伸ばす。
湯飲みに口をつけてから気づく。
「今日はやけに喉が渇くな…」
私は空っぽの湯飲みを見つめた。
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レモン(プロフ) - はじめまして、ハクも格好いいけど紫苑の方が可哀相に思えて、紫苑が好きになってきました。これからも応援してます! (2019年1月20日 22時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - ほほぅ…誤って評価を…ならあなたのかわりに私がいれないでおきます((ニコッ あ!ごめんなさい。誤作動でおしちゃいました★ (2018年12月15日 21時) (レス) id: 7e3c093cf9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し43692号(プロフ) - 作者様から返事が、、!ありがとうございます(^O^) 紫苑君の活躍期待してます!笑 ずっと応援してます(^-^)/ (2016年3月26日 19時) (レス) id: 9d06ba8ba1 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 季紀さん» 季紀さん!?君の手シリーズ読んでました!(`・д・´)売ってる本みたいだなんて…そんなそんな…!ありがとうございます!これからも頑張らせていただきます! (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 名無し43692号さん» ありがとうございます!紫苑君、これから結構活躍するはずです!見届けてあげて下さい!よろしくお願いします!(´▽`)ノ (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もなか | 作成日時:2015年11月19日 1時