それぞれの仕事 ページ12
Aとハクの歩いていく後ろ姿をただ悔しそうにじっと見つめながら、紫苑は小さくチッと舌打ちした。
それから兄役達の方に向き直り、先ほどの悔しそうな顔は何処へやら愛想のいいにっこりと笑った。そして、一人の兄役の前に立ちニコニコしながら手を差し出した。
「紫苑と言います。よろしくお願いします。」
手を差し出された兄役は、握手をするためにその手を握った。その瞬間、紫苑の爽やかな笑みは一気に歪んだ。
バチバチッ!
その場に響く静電気のような音。そして、痛てててて!とその場にうずくまる兄役。紫苑は吹き出す。
「ぎゃははははっ!引っかかった!くくっおもしれー!」
そう言って嗤う彼の手のひらには、小さな雷のようなものがバチッバチッと音を立てていた。周りの兄役達も、湯女も何が起こっているか分からない状態。そんななか紫苑の笑い転げる声が響く。
そう、これが彼の趣味。人に魔法で悪戯を仕掛ける。その手口も毎回違い、巧妙なためとってもたちが悪い。
一通り笑った後、紫苑は未だにうずくまっている兄役に言う。
「ほら、仕事なんだろ?早く教えて。」
「あ…あぁ。」
兄役は、少しビクビクしながら紫苑を持ち場に連れて行った。
「ここ…どうするんだっけ?」
「ここには在庫数を、ここは備考を記して…」
帳場に着いたハクは、早速Aに仕事の仕方を教える。Aは、久しぶりの仕事と彼のこの隔たりのない接し方に戸惑う。
六年の月日が流れたんだ。互いに色々変わってて、少し互いに壁を作ってしまうはずだ。昨日の夜もAは、皆と、彼との再開に変に緊張していたのに…彼は違うのだろうか?
それもそうか、私にとってのハクは“好きだった人”でハクにとっての私は“幼なじみのようなもの”だから…。
そんな事を悶々と考えるAの顔を見てハクは怪訝な顔をする。
「A…大丈夫?一度に多くのことをさせてしまったね。」
「へ!?…うっううん。大丈夫!全然平気!」
そう言いながらAは、帳簿に筆で言われたとおりに記していく。一方のハクも隣の机で自分の仕事に戻る。
Aは、チラリとハクの方を見る。ピンと伸ばした背筋で、筆を持ち、流れるように書いていくその姿は綺麗な絵みたいで心なしかAも緊張してしまう。
しばらくしたときだった。
「ねぇ、A。」
「何?」
ふとAは、彼の方を見る。深緑の瞳が彼女で瞳とぶつかる。ハクは再び口を開いた。
「綺麗になったね。」
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レモン(プロフ) - はじめまして、ハクも格好いいけど紫苑の方が可哀相に思えて、紫苑が好きになってきました。これからも応援してます! (2019年1月20日 22時) (レス) id: e66d7d83c8 (このIDを非表示/違反報告)
しろ - ほほぅ…誤って評価を…ならあなたのかわりに私がいれないでおきます((ニコッ あ!ごめんなさい。誤作動でおしちゃいました★ (2018年12月15日 21時) (レス) id: 7e3c093cf9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し43692号(プロフ) - 作者様から返事が、、!ありがとうございます(^O^) 紫苑君の活躍期待してます!笑 ずっと応援してます(^-^)/ (2016年3月26日 19時) (レス) id: 9d06ba8ba1 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 季紀さん» 季紀さん!?君の手シリーズ読んでました!(`・д・´)売ってる本みたいだなんて…そんなそんな…!ありがとうございます!これからも頑張らせていただきます! (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
もなか@中身はこしあん(プロフ) - 名無し43692号さん» ありがとうございます!紫苑君、これから結構活躍するはずです!見届けてあげて下さい!よろしくお願いします!(´▽`)ノ (2016年3月26日 18時) (レス) id: 143efacaa5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もなか | 作成日時:2015年11月19日 1時