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あなたが駆け出して、その滑らかな体温に引っ張られるようにして僕も後を追った。ヴェールのような髪が靡いて綺麗だった。あなたが高らかに笑い声をあげて、足を速めて、ふたりしっかり手を繋いだまま夜の海に飛び込む。
水飛沫でびしょ濡れになってもあなたは止まらなくて、膝まで浸かってたくしあげたワンピースを持ったままアハアハ笑っていた。脚で水を掛けられたからお返しに小さく掛けてやったら何倍にもして返してきて、水の掛け合いが終わる頃にはふたりとも頭から海水を被っていて、あなたが離してしまったワンピースの裾がユキヤナギを散らしたみたいに円く広がっていた。
夜の海はどこまでも黒く深く澄んでいて、光源といえば月明かりくらいのものだった。抱き締めたあなたは相変わらず痩せていて、鮮やかな海の匂いがした。
「綺麗だね、アズール」
「……そうですね」
「あはは、きみのこと言ってるんだけど」
「おや。僕はあなたのことを言っていましたよ」
あなたが身を捩るから少し腕を緩めて体を離す。濡れた髪がひとすじ頬に貼り付いていて、ちょんとつまんでよけると目を微かに眇めてこちらを見た。
「綺麗だよ。彫刻みたい」
「……」
「動いて喋って息する彫刻。ちょっと怖いね」
「ふふ」
白い月光を惜しげなく浴びて、そうやってあなたがいたずらっぽく笑うから。何度目かも分からず抱き締めたらあなたはくすぐったそうにもっと笑って身動ぎし、背中に手を回してきた。そのまま前後にゆったり揺れて、一回り小さなあなたの頭に顎を乗せる。
「僕が彫刻ならあなたは何でしょうね」
「何だろう。ナイフとか？」
「なんでですか……」
「アズールがナイフに削られるのは嫌じゃんか」
私に削られるならまだいいかなって。あなたが囁くように言ってこちらに体重を掛ける。開いた襟から肩甲骨の輪郭が見えて、白いスカートがコハクチョウの羽毛のように揺れる。
暫くそうしていて、波が足を攫おうとするままにそっと腕を解いた。ぱちりと目が合って濡れた睫毛が瞬いて、幸せそうにあなたが微笑む。陸風に揺れる髪が月を写し込んで輝いて、滑らかな輪郭が海に浮かんでいた。綺麗なひとだった。天使のようだと思った。
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雀(プロフ) - 青天の霹靂さん» 素敵なコメントをありがとうございます。そんなお言葉を頂けるなんて思ってもいなかったので本当に嬉しいです……☺️ (12月1日 5時) (
レス) @page4 id: c1b4c36bd5 (このIDを非表示/違反報告)
青天の霹靂 - 見直して、好きが溢れてしまったのでコメントを残しておきます。この小説、言葉に出来ないほど素敵で儚くて…好きです！！ (11月30日 23時) (レス) id: 1bafc3cd7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雀 | 作成日時：2023年10月9日 11時
