𖤣𖥧𖥣𖡡𖥧𖤣 ページ1
旅に出ようか。そう笑うのはいつでもあなただった。下着の替えとちゃちな小銭入れと、あとはインスタントカメラでも持っていこうか。まるで近所のコンビニにでも行くような気軽さでひょいひょいと小ぶりなバックパックに物品を放り込んで、よしいつでも行けるよ、とニコニコこちらを向く。
「どこにしようか。アズールが決めていいよ」
小首を傾げてそう言うあなたの真似をして、すこし首を傾け思案するフリを数秒。上目遣いで見遣ってみたらばちりと目が合って、ふたりで小さく吹き出した。
「あなたは何処に行きたいんです？」
「どうするの、私が夕焼けの草原！とか言ったら」
「再来月末ならまだまとまった休みがとれそうですよ」
「アハ、じょーだんじょーだん。……海にね、行きたいの」
𓆉
そういうわけで、僕たちは翌朝にはふたり、賢者の島北海岸に向けてミニクーパーのアクセルを踏んだ。
運転は久しぶりだった。電車や鏡、箒を使うことも考えたけれど、あなたは頑なに鏡で時間を短縮するのを(こういう場合は特に)拒否したし、それに関しては僕もまあまあ同じ意見だった。公共交通機関を使うには北海岸はやや不便で、知っての通り僕は空の旅がそこまで得意ではない。厳正なるジャンケンの結果負けた僕がハンドルを握ることになり、慎重にスタートを切ったら助手席のあなたに笑われてしまった。いくらなんでもスローモーすぎないか？と。
僕もあなたも中々に多忙で、まとまった休暇はとれそうになかったから今回の旅行は随分と短距離になってしまった。まあ僕たちが旅行らしい旅行をしたのはもう随分と前のことだし、僕の運転技術を鑑みれば丁度いいと言えるだろう。
道中は何度かコンビニに寄ったり古本屋に寄ったり映画館でフライヤーを手に取ってみたり、と僕たちは移り気に街を楽しみ、本来の到着時間を大幅に上回らせた。昼食は持ってきていたから、閑散としたSAにミニクーパーを停めて窓を開け、ふたりでクーラーボックスの中のサンドイッチを食べた。あなたはBLTサンドをいたく気に入って繰り返し僕を褒めた。
「今まで食べたどの店のよりも美味しいよ、流石アズール」
「ラウンジのよりも？」
「ラウンジのよりも。何が違うんだろ。愛かな」
「なるほど。帰ったらレシピに愛を追加しましょうかね」
食べ終わったらまた少し車を走らせ、昼過ぎに目的地に着いた。海はおだやかに凪いでいて、季節柄ビーチに人影は疎らだった。
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雀(プロフ) - 青天の霹靂さん» 素敵なコメントをありがとうございます。そんなお言葉を頂けるなんて思ってもいなかったので本当に嬉しいです……☺️ (12月1日 5時) (
レス) @page4 id: c1b4c36bd5 (このIDを非表示/違反報告)
青天の霹靂 - 見直して、好きが溢れてしまったのでコメントを残しておきます。この小説、言葉に出来ないほど素敵で儚くて…好きです！！ (11月30日 23時) (レス) id: 1bafc3cd7d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雀 | 作成日時：2023年10月9日 11時
