reminiscence..【佐野万次郎】 (ページ36)

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万次郎の拳が頬に当たると鈍くて重い音がした。
見物していた子達の中から「キャッ…！！」と短い悲鳴が聞こえると、錆びた鉄棒のニオイと同時に温かいモノが口の中にジワっと広がった。
私は廊下にポタッと垂れ落ちたソレを見ると手を口元に添えた。
そして目を見開きハッとしている万次郎を見つめた。

辺りが騒然とする中、そこへ「なになに、ケンカ？」と興味津々に圭介が顔を出すと「…ってオマエらかよ！！」と突っ込みながら近寄ってきた。

『……』

「は？！オマエ血…！！ちょっと見せろ！！」

圭介は私を見るとすぐに表情を変えケガの具合を見てくれた。
そして「あー…」軽く舌打ちをしながらそう言うと近くにいた私の友達に「わりぃけどコイツ保健室に連れてってくんね？」と声を掛けてくれた。
私は茫然とする万次郎を一目見ると顔を伏せ友達に連れられその場を後にした。

万次郎に対して色々思うことはあったけど、とにかく今日はもう顔を合わせたくなかった。
保健室に着くと先生に手当てをしてもらい「早退していいですか」と話しを持ちかけると「担任の先生に聞いてくるわね」と言われ最終的に了承を得た。

あのあと万次郎がどうなったかは知らない…。
ただ私の代わりに友達が荷物を取りに教室へ戻った時にはもういなかったと聞いた。

私は友達にお礼を言うとこの日は早めに下校した。

何度も3人で歩いた道のりを1人で歩き、走馬灯のように色んな思い出が頭の中に流れてくる。

(もう…やだな…)

昨日と違って今日は静かに玄関を開けると無言のまま中へと入った。

すると、気配を感じ取った櫂が「おい、さっき学校から電話来たぞ」と声を掛けてきたから私は足を止めて「ごめんなさい」とだけ言い自分の部屋へと向かった。

櫂は私の様子を見るなり後を追ってくると「どれ、見せてみ」と顔にかかった髪をよけケガの状態を確認した。
見ただけで特に何も言わず、ただ私の頭にポンと手を乗せると櫂の携帯が鳴りはじめた。

「真からだ」

携帯を耳に当て話し始めた櫂は「うん、うん、」と相槌をするだけだった。
その様子からしてきっと万次郎の家にも学校から連絡が来たのだろう、そして真兄が心配をして連絡をしてきたのだろう、そう思った。

「あー…ちょっと待って。…A、真が今から万次郎連れて来ていいかって」

私は少し考えた。

そして首を縦に振った。