鋭く突き刺さる ページ9
眠り慣れないベッドで目覚めた翌朝のこと。
重い瞼をこすりながら、顔を洗い、髪をとかして今日から通う花咲学園高校の真新しい制服に袖を通す。そして姿見に映る自分の姿を確認してから部屋を出た。
重い足取りで談話室へと向かえば、やはりもう皆起きていて。薄い扉の向こうから、昨日と同じく賑やかな声が響いてきた。
緊張で鳴りやまない心臓を何とか落ち着かせながらも、扉を開ける。しかし、ガチャリという音にその場にいた人達の視線が此方へと一気に集中してしまい、一度は落ち着いていた筈の心臓が再びうるさく鳴り出した。
「Aチャン、おっはようッス！」
昨日と同じく、七尾 太一さんが明るく声をかけてくれたのだが、今はそれどころではない。
此方に集中した視線が怖くて、くらくらと目眩がする。徐々に息苦しくなる胸を手で押さえ、倒れそうになるのを必死に耐えるも、怖さは変わらない。
挨拶を返さなきゃ、そう思えば思うほど声がでなくなり、手が震える。
「Aチャン？ 大丈夫っすか？ なんか、顔色が……」
様子のおかしい私を心配して、七尾さんが顔を覗き込んでくる。
「大丈夫です……！ だから……私のことは放っておいてください！」
それに動揺して、つい、また冷たい物言いをしてしまったことに後悔した。
咄嗟に出た言葉は、もう無かったことには出来ない。
「あんたさぁ、挨拶もまともに返せないわけ？」
慌てて、謝ろうとするももう遅く。
七尾さんとのやり取りを傍で聞いていた瑠璃川 幸さんの鋭く、責めるような一言が私の胸に突き刺さった。
「……すみません」
ようやく絞り出した謝罪の声が、やけに、騒がしい談話室に響いた気がした。
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作者名：櫻餅 | 作成日時：2020年9月11日 23時
