冷たい少女 ページ5
MANKAIカンパニーの団員寮の扉を一人の少女が叩いたのは、それから数日後のことであった。
「立花いづみの妹、立花 Aと申します。いつも姉がお世話になっております」
支配人である松川に連れられやって来た少女は、珍しく全団員が揃う談話室の中心にて、抑揚のない声で一通りの自己紹介を終わらせた。
「これから、よろしくお願い致します」
そして表情を一切変えることなく、肩口で綺麗に切り揃えられた烏羽色の艶やかな髪を揺らしながら全団員の前で深々と頭を下げた。
赤く染まった小さな唇と大きな瞳を縁取る長い睫毛。雪のように白い肌に華奢な体。
中性的で、何処か儚げな空気を纏う可憐な少女に一同唖然。
あの、明るい監督の妹である。きっと監督に似て、元気な子が来るに違いないと考えていた団員たち。だが、想像していたよりも、物静かな少女が来たことに驚き、どう接して良いのか分からず困惑するばかりで。その場に僅かな沈黙が流れた。
「あ、あの！ その制服、大阪の名門女子校の制服ですよね？！」
「はい」
気まずい微妙な空気を読み取り、気を遣った咲也が、彼女が身に纏うセーラー服を見て質問を投げ掛けてみるも返答は呆気なく。
彼女の淡々とした態度に咲也、撃沈。話題を広げることが出来ずに頭垂れる。そんな咲也を慰めるようにして、至がよくやったと言わんばかりに彼の肩に手を置いた。
「え？！ 終わり？！」
素っ気ないAの返答に、思わず突っ込みをいれたのは彼女の様子を後ろから見守っていたいづみであった。
「も、もっと他にあるでしょ？ 大阪の劇団に所属してたとか、今度から花咲学園高校に通うことになったとか！」
「特にない」
「もー！またそんなこと言って！」
冷たい物言いのAに対して、いづみが呆れたように怒る。だが、彼女の態度は変わらない。
「ごめんね、みんな」
いづみが申し訳なさそうに眉を下げる。
「アンタ以外、どうでもいい」
「余計ややこしくなるから、お前はちょっと黙ってろ」
相も変わらず、いづみ以外に興味を示さない春組所属の碓氷 真澄の口を、同じく、春組所属の皆木 綴が塞ぐ。
「ま、まあまあ監督！ これから知っていけば良いことですし、オレたちは大丈夫です！」
咲也がすかさずいづみを安心させるように、いつもの明るく人懐っこい笑みを浮かべてフォローをいれた。
一方、当の本人であるAは気にしたようすもなく。すっかり冷めきってしまった紅茶に口をつけた。
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作者名：櫻餅 | 作成日時：2020年9月11日 23時
