蓋をした気持ち ※6/28内容一部変更有り ページ20
しっかりと蓋をして、出てこないようにしていたはずの芝居への情熱。
冬組が真剣に稽古する姿を見ていたからか。大好きな姉さんと久しぶりに芝居に関する話ができたからか。はたまた両者か。はっきりとは分からないけれど、自分でも気づかぬうちに蓋が空いて、溢れてきてしまっていたのは確かだ。
どうしても我慢が出来なくて。ずっと見ることすらも避けていた台本を広げ、もう役者でもなんでもないくせして、一人前に口を出していた。
「それとね、さっきの雪白さんの台詞のところなんだけど――」
「何の話だ？」
その時の私はもう、すっかりお芝居に夢中になり過ぎていて。高遠さんが近づいてきていたことに気が付かなかったらしい。
彼に突然声をかけられ、ハッと我に返る。
舞台に立てなくなった人間が何を偉そうに語っているのだろうか。
急に自分が恥ずかしくなって口をつぐむ。
「A……」
そんな私を見て、となりに座りながら楽しそうに話を聞いてくれていた姉さんが悲しそうに眉を下げた。
「どうした？」
突然黙り込んでしまった私を不思議に思った高遠さんが、此方の顔を覗き込んできた。
高遠さんの整った顔が目の前に現れる。
「ひっ！」
それに動揺して後ろへと下がった瞬間、勢いあまってガツンッと鈍い音を立てながら背後の壁に頭をぶつけた。
「おい、大丈夫か？！」
「A、大丈夫？！」
姉さんと高遠さんの心配する声が同時にレッスン室に響き渡る。
ほんと、何やってるんだろう私……。
「だいじょうぶです。すみません」
じんじんとする痛みに半泣きになりながら、今にも消え入りそうな小さな声で何とか返事をする。
負のスパイラル ※6/28内容一部変更有り→←はじめのいっぽ ※6/28内容一部変更有り
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作者名：櫻餅 | 作成日時：2020年9月11日 23時
