掠れる声 ※6/28内容一部変更有り ページ16
「お、お待たせしました」
扉を開ければ、そこには私と同じくジャージ姿の月岡さんの姿があった。
「おはよう。急にごめんね」
「いえ、大丈夫です」
それなら良かった、と優しく笑いかけてくれる月岡さんに安定の人見知りを発揮し、どうしても無愛想な態度をとってしまう自分が憎い。
下を向いて、月岡さんの顔すら見れないでいる私に気を悪くした様子もなく。彼は、実はね、と言葉を続ける。
「折角、一緒に住んでるんだから、Aちゃんに俺たちの稽古を見てもらおうかと思って」
まだ会って何日も経っていない私でも分かる。
月岡さんはとても良い人だ。こんな無愛想で可愛げのない私にも分け隔てなく優しく接してくれる。
「Aちゃんもお芝居してたって聞いたから、良かったらアドバイス貰えないかな、と思ったんだけど……ダメ、かな？」
月岡さんはきっと、私が役者だったことを姉さんから聞いたのだろう。理由は兎も角として、舞台に立てなくなっていることもきっと知っている。だから、こんな風に気を遣って私を誘いに来てくれたのだ。嬉しいと思う反面、暗い気持ちが背中にのし掛かる。
台本すら開けなくなった私が、果たして稽古に参加しても良いのだろうかと、どうしても、マイナス方面に考えてしまう自分がいる。けれど、折角私を誘ってくれたのだ。ここで断るのも申し訳ない。
「……参加します」
断る勇気のない私は、恐怖に支配されて震えの止まらない手を背に隠しながら、掠れる声で返事をした。
騒がしくなる心臓の音 ※内容一部変更有り→←午前六時 ※6/28内容一部変更有り
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 175人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：櫻餅 | 作成日時：2020年9月11日 23時
