過去にとらわれて ページ14
輝くスポットライト。
幕の上がった舞台。
観客席からのざわめき。
泣き喚く女。
投げ出された血濡れのナイフ。
そして、真っ赤に染まった板の上に力無く横たわる自分の姿。
思い出したくもない地獄のような光景が広がる。
逃げ出したいのに、鉛のように体が重くて動かない。そして恐怖に支配され、その場に立ちすくんだ瞬間である。
舞台に倒れる自分の虚ろな瞳が此方をとらえた。
光のない、暗い、暗い瞳が私をとらえて離さない。まるで、私を地獄へと誘うように。
「いやっ！」
あまりの恐ろしさに、叫び声をあげてようやく気づく。これは現実ではないことを――――現実ではないことを確信するや否や、私は慌てて瞼をあげて、自室のベッドから飛び起きた。
「……ゆ、め？」
辺りを見渡して、そこがすっかり見慣れた自分の部屋であることを確認してから安堵の息をついた。
どうやら、自分は夢を見ていたようだ。それも、とびきりの悪夢を……。
乱れた呼吸を整える。
そして悪夢の原因となった右腹部の傷を視界に入れないようにしながら、汗でぐっしょりと濡れてしまったパジャマから着替えた。
どうしようもない倦怠感に襲われながら、再び布団に潜り込むも眠れるはずもなく。すっかり冴えきってしまった目と、沈みきった気分を何とかしようと本を読んでみたり、キッチンへこっそり行って水を飲んでみたりしたのだが効果はいまいちで。
嫌なことがあったとき、悪い夢を見たときはいつも台本を読んだり、一本のお話を考えて実際に書いてみたり、発声練習をして思いっきり声を出してみたりと、演劇に関することですべて解決してきたのだ。そんな私が今さら、普通の方法で気分転換をしようだなんて無理な話であった。
「はあ……」
舞台の上へと立つことすら出来なくなった自分の情けなさに溜め息が出た。けれど、どうしようもなかった。
あの時の光景が、痛みが、恐怖が、頭にこびりついて離れない。忘れたくても忘れられない出来事に震えが止まらなくなるのである。
――ああ、いつになったら私は前に進めるのだろうか。
それは、いつまでたっても過去に囚われたままの自分に絶望した、明け方四時のことであった。
午前六時 ※6/28内容一部変更有り→←嫉妬 ※6/28内容一部変更有り
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 175人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：櫻餅 | 作成日時：2020年9月11日 23時
