舞台の上のシンデレラは、窮屈なガラスの靴を脱ぎ捨てた。【A3！】 (ページ2)

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東京郊外にある街、天鵞絨町。
通称「ビロードウェイ」

数多くの大小様々な劇場が集まっており、演劇を志す者達が一度は憧れる演劇の聖地である。そんな街の駅、天鵞絨駅から少し離れた場所に位置する劇場。

古ぼけていかにも歴史を感じさせる外観に、色褪せた看板を掲げるのは元・ビロードウェイ随一の人気劇団、MANKAIカンパニーが所有するMANKAI劇場だ。

この劇団は団員が、春夏秋冬の四つの組ごとのチームに分かれ、１ヶ月ごとにローテーションで公演を行っていた。最近までは劇団員もおらず、積もりに積もった借金で首が回らない状態で。

まともに公演を行うことすら出来ず、経営難に陥っていたが、新しい主宰兼総監督を迎え入れ、団員も新しく入ったことにより少しずつ元の活気が戻りつつあった。そんな劇場の外の扉の前で、若い女性が困った顔をしながら電話をしていた。

寂しそうな、少しだけ泣きそうな表情を浮かべながら、電話の相手の話に耳を傾けている彼女こそが、MANKAIカンパニーの主宰兼総監督である立花いづみだ。

『だって、そろそろどうにかしてあげたいじゃない』

「うん、そうだね……お母さん」

電話の相手は彼女、いづみの母親である。

『あの子が演劇をやめて、もう半年になるのね』

母親はスピーカー越しに、小さくため息をつきながらも「それじゃあ、たまには帰ってきなさいよ」とだけ、もう一人の大切な娘に伝えて電話を切った。

長いようで短い電話が終わるといづみもまた、深くため息を吐きながら扉にもたれかかった。

「んー、ダメもとで頼んでみようかな」

そして、少しだけ考え込む素振りを見せたあと、何かを決心したように一言呟いた。

――――ひとつの物語の幕が上がる。