月に恋せよ暦ガール 【6】

月恋 第246話 【ミイラ取り】 ページ8

私が再び、映画のヒロインオーディションを受けることが決定し、無事、書類審査を通過した翌日の土曜日のこと。

私のデビュー曲が挿入されたファーストシングルが発売され幾日か経ち、次の新曲に向けての打ち合わせが朝早くからあった。

冬特有の冷たい風が吹く寒空のもとへ出るため、紺色のダッフルコートを羽織り、首には赤いマフラーを巻いて完全防寒。

しかしながら、女の子らしくスカートも履きたいと、黒のミニスカートを着たところ、当たり前であるが足がとても寒かった。

せめてもと、ハイソックスを履いたけれどそれもさほど意味はなく。

行きの道で木枯らしに吹かれたうえ、打ち合わせが行われた事務所の会議室は節電のためか理由はさておき、暖房が効いておらず。すっかり足が冷えてしまった。

まるで冷蔵庫の中に数時間置いておいたかのように冷たくなった足を動かしながら、殺風景な道に落ちた枯れ葉が風に流され、目の前を過ぎ去っていく光景を目にしつつ寮までの帰路へと着く。

「あー、寒い」

なんとなく口にしたひとりごとが、たまたま通りかかった車のエンジン音に掻き消された。

ようやくツキノ寮の手前までやって来たとき。ガサリ、と私の頭上の枯れ木から物音がした。

枝に止まっていた鳥でも飛んでいったかと、何気なく視線を上に向けた。そして、次に目に飛び込んできた光景を見て私は息を飲んだ。

「な、なんで白田ちゃんが木の上にいるの?!」

ツキノ寮のペットの白兎。とっても小さなプロセラのお姫様、白田ちゃんがなぜか大木の太い木の枝の上でプルプルと震えていたのである。

まさか、木の上に登ってみたは良いものの降りれなくなったとか?

理由は兎も角、この寒空のした、うちの大切なお姫様である白田ちゃんをこのままにしておく訳にはいかない。

あんな高いところまで行ってしまって。怖かろうに。

「いま助けるからね!」

動きにくいからと着なれた紺色のダッフルコートをその場で脱ぎ、先日一目惚れして買った真新しいマフラーも首から外す。そして登る際に滑るからと、履いていた茶色のローファーと黒のハイソックスも脱いでいざ、久しぶりの木登り開始である。

山奥で育った私には木登りなど、お茶のこさいさい。猿のようにするすると難なく白田ちゃんの元まで登ることに成功。しかし、ここでひとつ、ある問題が発生した。

「……白田ちゃん抱えてどうやって降りよう」

ミイラ取りがミイラになるとは、まさにこのことであった。

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