月に恋せよ暦ガール 【6】

月恋 第255話 【周りに花を咲かせる】 ページ17

赤く焼けた太陽が半分以上沈みかけ、だんだんと暗く成り行く東京の裏通りを歩く。

ほんとうは、もっと明るい時間に来たかったし、薄暗くなってくる時間帯にこんなにも可愛らしい椿さんを歩かせたくはなかったが、椿さんからどうしても行きたいとお願いされてしまっては断れない。

ええ、いいですとも。可憐な我らの椿姫さまのお願いである。是非とも叶えてご覧にいれましょうと、私は頷きその願いを聞き入れたのであった。

街灯がぼんやり照らす薄暗い道を、椿さんと手をはぐれまいとしっかり繋いで向かうは私が前、東京に来たばかりの頃に偶然見つけた小さな本屋さん。

とても雰囲気のあるお店で、小ぢんまりとしているものの品揃えが良く、マニアックな古い小説などもたくさん置いてある。

街角にちょこんと位置しているため、場所も分かりにくくお客さんも少ない。だからこそ、そのお店にあるかもしれないという僅かな希望を胸に抱いた。

お店が遠目に見えてきた途端、ふたりしてその本屋へと駆け込み雑誌コーナーを探す。そして――――

「椿さん! ありました!」

残り最後の1冊。堂々と、それでいて艶やかに我らがグラビのリーダーであり、黒き王様と名高い始さんが表紙を飾る雑誌を見つけ、感動のあまり他のところへ探しに行っていた椿さんに大きな声で知らせてしまい、店内の注目を集めてしまった。

はっとして急いで口を両手で塞ぎ、被っていた帽子を更に深くかぶる。

私も最近顔が売れ出したから、外を出歩くときは他の人に気付かれぬよう重々気を付けろと黒月さんに最近忠告されたばかりであった。

気を付けなければと、細心の注意を払いながらも雑誌を手に椿さんへと駆け寄る。

「はい、どうぞ」

雑誌を渡せば、椿さんはそれを受け取り、大切そうに両手で抱きしめた。

「ありがとう、A」

顔を綻ばせ、周りに花を咲かせる椿さん。そんな彼女を見て、無事に本が買えて良かったとつられて私も笑みをこぼしたのであった。

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