月に恋せよ暦ガール 【5】

月恋 第198話 「指切りげんまん」 ページ7

「A」

漸く話し合う決意をして直ぐのこと。
始さんの後ろの方から、突然聞き覚えのあり過ぎる声で自分の名を呼ばれ、ビクリと小さく肩が跳ねた。

「あ、えっと」

私に気付いた父が、何時も以上に眉間に皺を寄せ此方を真っ直ぐに見詰めてくる。何か、言いたいことは沢山あるはず。それだと言うのに、中々言葉が出てこなくてその場であたふたと慌てるばかりの私に始さんと、いつの間にか後を付いてきていた春さんが小さく笑みを溢した。

「大丈夫だ。何時ものお前らしく、素直に自分の気持ちをぶつけて来い」

「始の言う通り。Aちゃんの今の気持ちを落ち着いて伝えれば、きっとお父さんも分かってくれるはずだよ」

隠し事ばかりで何も言わない薄情な私を、大切な妹分だと言い、私が悩めば前に進める様に背中を押し、応援してくれる2人。

私は父さんと向き合うだけでなく、12人の先輩であり兄貴分とも向き合わなければならない気がした。

「父さん、さっきはごめんなさい。それと、父さんにちゃんと話したいことがある」

父さんを真っ直ぐ見詰め返し、しっかりと逸らさず彼の目を見てそう言えば、父さんは少しばかり驚いた表情を浮かべつつも、ああ、と短いが強く頷きながら返事をした。

それを聞き、満足げに頷いてから始さんと春さんへ視線を移し、右手の小指をちょんっと遠慮がちに差し出した。

「父さんに自分の気持ちを伝えてきます。その後に、私の話を聞いてくれませんか?」

その私の行動の意図が読み取れず、不思議そうに少し首を傾ける2人に対し、私は悪戯っ子の様な笑みを浮かべそう告げた。

私が今まで隠してきたことを、心配ばかり掛けてしまった皆さんにも話すべきだと私は思ったのだ。

真実を隠して、はぐらかして、嘘を吐き続けるのはどうやら、私の性に合わないらしい。だから、彼等にも今まで隠してきたことを伝え、嘘を吐いていたことを謝りたい。

勝手に距離を置いてしまったのは私だけれど、どうしても私は皆さんともっと仲良くなりたいと思ってしまった。

我が儘で、自分勝手なお願いだとは分かっている。

迷惑だったかなと不安になっていれば、小指にするり、2人分の温もりが絡まれ、俯きがちだった目線を上げてみれば―――

「ちゃんと話して貰うからな?」

「約束だよ、Aちゃん」

2人が私の小指に自分の小指を絡め、優しくて包み込むような笑顔を見せてくれていたのである。

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