月恋 第196話 「過保護で、世話焼きで、強引なお兄さん」 ページ5
Aちゃんのお父さんだと言う一際人目を引く綺麗な男性は、何かを深く考え込んだ様子でツキノ寮の扉の前を行ったり来たりしている。そんな彼の様子を目にし只々、訳が分からないと状況が飲み込めず呆然とその場に立ち尽くすAちゃんに始が少しの沈黙の後、声を掛けた。
「さっき、お前は父親と喧嘩をした、そう言っていたな」
「は、はい。喧嘩して、そのまま家を……」
そこで彼女は口を噤んでしまった。恐らく、お父さんと言い合いをして頭に血が昇り、勢いに身を任せて家を飛び出して来たのだろう。
口を閉じたまま視線を俯かせるAちゃんを真っ直ぐに見詰め、始は言葉を続ける。
「俺達は喧嘩の原因を知らない。けど、お前のお父さんは、家を飛び出して行ったお前が心配で此処まで来たんじゃないかと俺は思う」
「えっ?」
始にそう言われ、彼女の小さく開かれた口から動揺の声が僅かに溢れ落ち、大きな灰色みがかった瞳が揺れた。Aちゃんはまるで、そんなこと有り得ない、そう言いたげな表情を自分の目の前に居る始へと向けた。
そこで何となくではあるが、彼女と彼女のお父さんの間に何かしらの溝があることが窺えた。喧嘩をし、家を思わず飛び出してしまった自分の子供を心配しない親が何処に居る。
子供を想い、気に掛け、不安で堪らず追い掛ける。それが俺の中での普通。けれど彼女の場合、それが普通ではない様だ。
「岐阜から東京までなんて中々来れるものじゃない。けれど、お父さんにとってお前は大切なたった1人の娘だ。だからこそ、多少の無理をしてでも此処まで来た」
だが、と始は一呼吸置いてから言葉を続け、状況がいまだに飲み込めず、難しげな顔をして沈黙してしまったAちゃんの細腕を掴んだ。
「始さん?!」
「は、始?!」
始の唐突で強引な行動に、腕を掴まれた本人であるAちゃんだけでなく、俺までもが驚き慌てて彼の名を呼び止める。が、今の彼はそんなのお構い無しである。
「それをお前が理解するには、お父さんとまずちゃんとした話し合いが必要だと見た。行くぞ」
そう言うや否や、漸く自分が何を言われたのかを理解し、嫌だ嫌だと首を振り若干の抵抗をして見せるAちゃんを、ずるずる引き摺ってエントランスの扉から彼女の父親が居る外へと踏み出たのであった。
俺は其処でやっと、始の行動の意図を察し苦笑いを溢した。
どうやらうちの王様は、末っ子の事となると途端に過保護な世話焼きお兄さんとなるようだ。
月恋 第197話 「敵前逃亡断固拒否」→←月恋 第195話 「戸惑い」
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snow(プロフ) - 櫻餅さん» すごくキャラの性格が出ていると思います。皆の良いところが出ているなと思います。忙しいと思いますが無理せずに頑張って下さい! (2019年5月17日 17時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - snowさん» コメント有難う御座います!夢主人公だけでなく、書かせて頂いているツキウタ。キャラも好きだと言って頂けてとても嬉しいです! (2019年5月17日 5時) (レス) id: c0a9d4f092 (このIDを非表示/違反報告)
snow(プロフ) - こんばんわ♪更新、ありがとうございます。やっぱり好きです。ヒロインの真っ直ぐな所も可愛いけど、他のキャラも好き。今回の話は新君らしいなって気がしました。是非、志望校に受かって欲しいなと思いました。 (2019年5月16日 21時) (携帯から) (レス) id: bc61ae6263 (このIDを非表示/違反報告)
櫻餅(プロフ) - といろさん» コメント有難う御座います!また不定期ではありますが、更新頑張っていきたいと思っておりますので宜しくお願い致しますm(__)m (2019年5月15日 2時) (レス) id: c0a9d4f092 (このIDを非表示/違反報告)
といろ - 再開待ってました!ありがとうございます…!これからもずっと応援しています。無理なさらぬよう、お願いします…!! (2019年5月14日 13時) (レス) id: 8af1b1e6db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:櫻餅 | 作成日時:2018年11月5日 18時